「スポーツを愛し、スポーツの力を信じているからこそ、東京オリンピックは今からでも中止すべきです。開催することが理にかなっているとは到底思えません」
そう語るのは元ラグビー日本代表として活躍した神戸親和女子大学の平尾剛教授(46)だ。
ラグビーの強豪・神戸製鋼でプレーし、’99年ラグビーW杯も経験しているトップアスリートだった平尾さんは、現在は発達教育学部ジュニアスポーツ教育学科教授として、研究の道を歩んでいる。
「ここまで腐っているとは……」
平尾さんが語気を強めたのは、国際オリンピック委員会(IOC)に話が及んだときだった。
5月22日、海外メディアに“ぼったくり男爵”と揶揄されるトーマス・バッハ会長(67)が「いくつかの犠牲を払わなければいけない」と発言。
さらに25日には、古参幹部のディック・パウンド氏(79)が「アルマゲドン(最終戦争)に見舞われない限り、東京五輪は計画どおり進むだろう」と発言したことが伝えられた。
「新型コロナウイルスの感染拡大で多くの人が、ふだんの生活ができなくなっています。命の危険さえ感じている人は多い。そんななか、なぜオリンピックだけが特別扱いされているのかと、五輪に対して懐疑的なまなざしが向けられるようになりました」
その結果、多くの市民が素朴に抱いていた、“オリンピックはいいもの。世界の協調や平和に貢献するもの”という幻想のベールははぎとられてしまったという。
「オリンピックの正体は肥大化した商業イベントにすぎないことがあらわになりました。莫大な放映権料などの利権を守るため、さらには巨額のお金が動く来年の北京冬季五輪につなげるためにも、なりふり構わないで開催しようとする。そんな独善的なIOCの本質も暴かれたのです」
アメリカの有力紙ワシントン・ポストは、IOCが五輪を決行する動機は「お金である」と言いきっている。
オリンピックの価値もまた問われている。
「スポーツにとって、勝敗はあくまでも副次的なもので、そこに向かうプロセスのなかで、どれだけの喜びを得られるかが、その本質です。現在の、勝利至上主義、商業主義に毒された五輪はスポーツのあり方を悪い方向に持っていってしまうだけ。今後もこのまま続けていくのかどうか、私たちは立ち止まって考える時期が来ているのです」
スポーツ界を、そして自分自身を守るために、今こそアスリートも声を上げるときがきている。