(米海軍横須賀基地=横須賀市/写真・神奈川新聞社)
過激な主張、排外主義、女性蔑視発言-。さまざまな批判を浴びながらも、大方の予想を覆して米大統領選を制したトランプ氏。米軍基地を抱え、米国からの留学生が多い神奈川にも「トランプ・ショック」が広がった。超大国の歩む道が、暮らしや経済にどんな影響を及ぼすのか-。
トランプ氏は、日本が在日米軍駐留経費の負担増に応じない場合、米軍を撤退させる可能性に言及してきた。今後、安全保障政策が見直されることになれば、「基地の街」の経済やありようにも影響が及びかねない。
「うちは打撃を受ける立場だ」と危機感を強めるのは、県内の米軍基地で働く日本人従業員が加入する「全駐留軍労働組合神奈川地区本部」。飯島智幸執行委員長は、日本政府が駐留経費を捻出するために「従業員の労務費が(削減の)ターゲットになるのではないか。政治家に理解を求めていくしかない」。
「トランプ氏は日本にとっていい発言をしてこなかった印象がある」と受け止めている米海軍横須賀基地のお膝元、ドブ板通り商店街振興組合の越川昌光理事長は「これまで培ってきた(基地との)友好関係を崩したくないのだが」と不安な胸の内を明かす。
平和運動に取り組む関係者も、今回の大統領選の結果には大きな関心を寄せている。
横須賀で米原子力空母の事実上の母港化に反対する呉東正彦弁護士は「基地撤退を考える一つの変化であり、きっかけになる」と一定の期待感を示す一方で、「日本政府が負担増に応じるようだと、トランプ氏の思うつぼだ」と指摘する。
「トランプ氏とクリントン氏のどちらが大統領になっても、楽観できるような状況にはならない」と思っていた相模補給廠(しょう)監視団の沢田政司代表。「従来の米政権は沖縄の民意を無視し、(米軍普天間飛行場の)辺野古移設などを推進する立場だった。もしそれがリセットされる方向に向かうのならいいが」とかすかな希望を見いだしつつ、こう足元を見定める。「日米関係は地位協定を例に挙げても不平等であり、不合理。私たちはそれが是正される方向を目指して運動してきた。その立場はこれからも変わらない」
■「まさか」驚き、影響見極めへ 県内各首長
「まさかこんなことが起きるとは夢にも思っていなかった」。黒岩祐治知事はトランプ氏の勝利に驚きを隠さず、県内の基地運用への影響を見極める意向を示した。
トランプ氏は在日米軍を撤退させる可能性に言及したが、知事は「選挙のためかなり刺激的なアピールをしてきた。大統領になったら、それらしい振る舞いをしてくださるのではないか」と期待。その上で「日米関係がいかに大事か、第2の基地県としても、基地がある都道府県の渉外知事会の会長としてもアピールしなければ」と述べた。
基地の街・横須賀市の吉田雄人市長は「日米同盟は日本の平和と安全、地域の平和と安定にとって重要であり、今後も維持されるべきものと認識している」とコメント。基地を抱える3市の首長は「外交・軍事政策に変化があれば、厚木基地の運用に影響する可能性もある」(大木哲・大和市長)、「大統領就任後の日米安保に対する考え方を注視したい」(古塩政由・綾瀬市長)、「トランプ氏の政策展開を注視したい」(加山俊夫・相模原市長)などと、推移を見守る意向を示した。
また、横浜市の林文子市長は「経営の経験を通じて培った手腕とリーダーシップを発揮してほしい」と期待し、「横浜は開港以来、日米の懸け橋になってきた。今後も交流促進に貢献したい」とコメントした。