おやつにもなる、伝統行事の重箱にも入る沖縄のソウルフード天ぷら。フリッターのようなもちもちとした衣が特徴の沖縄天ぷらが主力商品の「上間弁当天ぷら店」は昼時、地元の人の長蛇の列ができる人気の老舗店だ。しかし、一時は負債2億円を抱えるほど苦況に陥った。そんな弁当屋を10年足らずで再建した若き経営者が「上間フードアンドライフ」(沖縄市登川)の社長、上間喜壽さん(32)だ。大学を卒業した2009年に両親から店舗を引き継ぎ、法人化。随時業績を確認できる会計システムの独自開発や社員の育成に力を入れ、長期視点で足腰の強い経営体制を構築している。
店のルーツは、石垣市出身で、漁師だった上間さんの祖父・喜仁さん(故人)が沖縄の日本復帰前、市中央のゴヤ市場で開いた刺し身屋。その後、親族が複数にのれん分けし、上間さんの両親も2001年に市登川に出店した。
上間さんが東京の大学で経営学を学んだ後、24歳の若さで店を継いだ理由は「つぶれそうだったから」。それまでは店に帳簿がなく、お金の出入りの管理ができていなかった。店は当時から人気があったが、原価率を考慮しないサービスなどで負債が膨らんでいた。
まず着手したのは、収入・支出額の管理と、商品カタログやロゴの作成によるPR力の強化だ。会計システムでは利益が随時確認でき、店舗ごとの社員がその都度、改善点を探れる仕組みになっている。人材育成にも定評があり、16年5月には県の「人材育成企業」に認証された。
単価の低い業態で収益性を上げるため、多店舗化も進める。3月には市美里に5店舗目をオープン。今後も新規出店を見通す。法人化当初に約1億円だった年間売上高は、17年3月期に初めて5億円を突破した。
母の恵美さん(61)は今も登川店の調理場で腕を振るう。「私も楽しく店の変化を見ている」と目を細めた。
「この業態は改革の余地がまだまだある。宝の山みたいな感じ」と楽しそうに話す上間さん。今年から洋食のケータリング事業を始めたほか、3年後をめどにアジア展開も見込む。
新たな取り組みを進める一方で、「食を通して沖縄の伝統を守り、伝え、発展させていく」との企業理念の下、地に足の着いた経営を進めている。(長嶺真輝)