第10話 花よりダンゴ
母と暮らし始めて2ヶ月余、母の金欠状況が、引きこもりを増長させることに気が付いた。この段階で、私は、母がどのくらいの年金をもらっているのか、そして、どうしてこうも金欠になるのか、さっぱり分からなかった。
母は、お金がなくなると、とにかくふて腐れ、昼間は、ひたすら寝続け、自分の部屋に引きこもる。
私は、そんな母にコレといって打つ手もなく、ひたすら焦る。
帰国して以来、一つ気が付いたことは、母は、何をやるにも私と一緒にやることを極端に嫌がるということだった。<自分は、今まで誰の世話にならずに一人で生きてきた>という自負に支えられているからだ、とすぐに気が付いた。
夫(父)には、さっさと先立たれ、下の娘(妹)は、二階のアパートにいるのにめったに顔を出さず、私は私で、オーストラリアに行ったきりで、帰ってこない。そんな自分の家族に対する母の憤怒を感じた。
この段階で私は、横浜に<母と住むために帰ってきた>ことを何回も伝えているが、もはや母の脳裏には、刻み込まれず、むしろ私は、いずれまたいなくなる娘である、と思い込んでいるらしかった。
前作の「THEダイエット!」で私の帰国を熱望していると発言したのは、一体誰だったんだろう、と思うほど母の態度は、私に対してかたくなだった。これが、長いこと親不孝をしてきたツケなんだろうなあ、認知症の症状も、進んでいるのかなあ、と考え、かなり切なかった。
今週末まで待てば、桜は散ってしまう、という4月のある日、私は、意を決して、カメラを片手に母をお花見に誘った。桜を見ることで、母の心は、癒されるのではないか。そんな風に考えた、というより願ったからである。
例によって母は、外出を嫌がったが、私も負けずに説得を続けた。そんな私に母も花見に一緒に行くことをようやく同意してくれた。
はああ、ヨカッタ、と心底嬉しかった。
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