第38話 アルツハイマー病を楽しむ!?

私の周囲には、いわゆる<介護OB>と呼ばれる親の認知症の介護をし、看取った人達が、何人もいる。何かと助言をもらうことも多く、とてもありがたく思っている。

それだけ、私の世代は、介護世代なんだなあ、とつくづく思う。

そんな介護OBの一人で、際立っている友人が一人いる。彼の助言は、他の誰とも違う助言で、私は、感嘆し、いつも彼のようにありたい、と密かに目標にしている人物である。

京都在住のN氏である。

N夫妻とのお付き合いは、かれこれ、20年に以上になるだろうか。私の第1回監督作品「戦場の女たち」の上映会でお世話になって以来だ。

N氏の父上は、私の母と同じく、アルツハイマー病を発症された。運転の上手なN氏は、父上を病院へ連れて行ったり、花見に行ったり、家では、一緒にお風呂に入ったりして、たくさんの時間を共有した。

ところが、最後は、父上は、息子であるN氏のことを全く認識出来なくなってしまった。それどころか、息子のことを<運転手>だと思い始めた時には、さすがのN氏も驚いたらしい。

しかし、である。

ここからが、N氏のスゴイところだ。
父上が、自分のことを運転手であると思うのならば、<運転手になり切ろう>と決心し、実際、運転帽を被り、手袋までして、運転をし続けたのだ!

一緒にお風呂まで入ってくれる息子のことを父上は、「なんて奇特な運転手さんが、いるんだろう。」と感激してくれたというのだ!!

父上は、アルツハイマー病発症から3年後、穏やかに逝かれた。

ああ、これぞ私の手本である!

N氏の姿勢は、色々なことが出来なくなっていく親を嘆き悲しむという<センチメンタル=自己中心的な要素>を排除し、アルツハマー病の親の世界観を大事に、さらには、積極的に共有したのだ。

そんなN氏の私への助言は、「せっかくだから、アルツハイマー病を楽しんで下さい。そんな運命を是非、もてあそんで。」である。

こんなことを言う人は、どこにもいなく、私は、そんなN氏のことをいたく尊敬しているのである。

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☆4月から始まったこの<映像ブログ>は、皆様のお陰で飛躍的にアクセス数が、伸び、こうして無事に年を越せることとなりました。深く感謝申し上げます。皆様、どうぞよいお年をお迎え下さい。関口祐加

 

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