「私
のパパ、あの木にいるの」。庭にある大きなイチジクの木の下で、死んでしまった父親。それ以来、8歳の娘は、木に父親がいると言う。映画『パパの木』は、
オーストラリアの大自然を背景に、家族が再生への道を歩んでいく姿が描かれている。ジュリー・ベルトゥチェリ監督に話を聞いた。
じゅりー・べるとぅちぇり☆
68年、フランス生まれ。長編映画デビュー作『やさしい嘘』で、04年カンヌ国際映画祭国際批評家週間でグランプリ、セザール賞最優秀作品賞を受賞。『パパの木』は監督2作品目となる。父親のジェン=ルイ・ベルトゥチェリも映画監督。
映画『パパの木』
監督/ジュリー・ベルトゥチェリ シネスイッチ銀座ほかにて公開中
(C)photo : Baruch Rafic – Les Films du Poisson/Taylor Media – tous droits réservés – 2010
――オーストラリアの大自然という環境が、物語の要だと思いました。とくに、タイトルにもある「木」ですが、あの大きな木を探し当てるのにすごく時間がかかったそうですね。
「2年以上かかりました。自分がずっと探し歩いていたわけではなく、スタッフの人たちが写真に撮ってきたものを見て、セレクトして、必要であれば現地に赴い
て……というのを続けていたら、2年以上かかってしまったんです。全部で千本ぐらいの木を見たと思うんですけど、どれも納得のいく木ではなくて、しっくり
こなかった。それで最初は都市の郊外で探していたのが、だんだんと田舎のほうへ行くようになりました。そうして、やっとある日、フランス人アシスタントが
探してきた木が自分の思うような木で。ひとめぼれして、決めました」
――家族が住んでいた、雰囲気ある家はセットですか?
「彼らの家は、木との距離感が必要だったので、家を買って好きな場所に運ぶようにしました。オーストラリアではよくやることだそうです。大きさと間取り、光の入り方などが重要なポイントでした」
――母親のドーン役をシャルロット・ゲンズブールが演じていますが、オーストラリアの物語なのに、フランス人の彼女が選ばれた理由を教えてください。
「本当は、ファミリー全員をオーストラリアの人にしたかったんだけれども、オーディションでたくさんの女性に会っても、しっくりくる人がいなかったんです。そ
れで、オーストラリア出身のケイト・ブランシェットがいちばんいいと思ってオファーを出しました。でも、なかなか忙しくて、粘ってみたけれど出演が叶わな
くて。そこで、設定そのものを変えることにしました。ドーンはフランス人だけれども、オーストラリアに来て、現地の男性と出会って結婚した、と。そのと
き、オーディションせずに、すぐにシャルロット・ゲンズブールがいいんじゃないかと思いました。それで彼女に会い、シナリオを読んでもらって、出演となっ
たんです」
――どのあたりが、ドーン役に適していたんでしょうか?
「以前からシャルロットという女優が好きだったし、とても強い感性を持っていて、少女として、女性として、母として、幅広い世代の部分を自然に出せる人だなと
思っていたんです。シャルロットが本質的に持っているメランコリックな部分は、ドーン役に適しているとも。とっても美しい女性だけど、造形的に彼女はすご
く美人というわけではない。そこがまたよかったし、シンプルで弱々しい部分も持っている。子供っぽいところもあり、母親としての部分もある。さらに、知名
度が高いこと、英語が堪能であること、そういったことも含めて、彼女に決定しました」
――オファーを出して快諾という感じだったんでしょうか? 撮影現場での彼女についてもお聞かせください。「すぐに快諾してくれました。撮影にいちばん遅れて合流したのが彼女だったんですけれど、ほかの出演者たちとすぐになじんでくれました。彼女は、役について話
してあって演じるタイプではないし、これまでの女優としての蓄積もあるので、テイク数もそんなに多くなかったです。それと、彼女が『いかにも演じている』
という演技をしないのがよかった。すごく抑制された、控えめな演技で。『ナチュラルに』と言っても、多くの俳優はオーバーに演じてしまいがちだけど、彼女
はそういうこともなかったです」
――この映画は、人の死を迎えながらも、希望を感じて前向きに生きていく姿が映し出されていますが、監督も脚本執筆中にご主人を亡くされたそうですね。監督は夫の死というものを、どう乗り越えたんでしょうか。
「それを話すと長くなるんだけど、自分なりの時間をかけて喪失感を回復させていった気がします。偶然、この作品を準備しているときに亡くなってしまったけれ
ど、いま思うと、それも『必然的な偶然』なのかなと思います。この物語は、自分の話とは切り離しているけれど、映画があって、子供たちもいたから、乗り越
えてこられたと思う。人を送る作業というのは、人によって個別の方法があると思うんですね。みんなが自分の方法を見つけて、再生していくことが重要なのか
なと」
――監督は、フィクション作品のほかに、ドキュメンタリー作家としても活躍されていますよね。次の作品は撮られているのですか?
「いま映画のために書いているシナリオはありますが、去年は、ドキュメンタリーをつくりました。今後も、フィクション、ドキュメンタリー、フィクション……という流れでつくっていけたらいいなと思います」
――では最後に作品のPRをお願いします。
「この作品は希望を感じ、生に向かって歩んでいく姿が描かれています。震災のあった日本で、このタイミングで公開されるのは格別な気持ちです。大切な人を失うのは、避けられない道だけれど、喪失感は生きるエネルギーにもなります。幅広い層の方に見てもらいたいですね」