「共演者の方々が、そうそうたるメンバーでしたので、『え! 本当に私が主役でいいんですか?』と聞き返したくらいです」
原爆被害の歴史を持つ長崎を舞台に、3世代にわたる市井の人々、それぞれの生き方を描いた映画『爆心 長崎の空』で、主役の清水(きよみ)を演じたのが北乃きいだ。
清水は、陸上競技に打ち込む大学生。ある日、彼女は母親とけんかをしたまま外出してしまうが、帰宅すると母親は突然、病死していた。一人娘を失った悲しみから立ち直れずにいる主婦・砂織(稲森いずみ)と、浦上天主堂で偶然出会った清水は、同じ悲しみを持つ者同士として心を通わせるようになる……。
ほかに共演は、佐野史郎、杉本哲太、池脇千鶴、石橋蓮司、柳楽優弥など。たしかに芸達者ぞろいだ。
「清水は、急死したお母さんに『ごめんね』のひとことが言えなかったことを後悔する女のコ。被爆3世である清水の気持ちに少しでも近づきたいと、長崎の原爆資料館に行きました。それまでは教科書で習った程度の知識しか持っていませんでしたが、実際に展示されたものを見て、触れて、肌で感じたことで、この作品に対する思いがさらに深くなりました」
ふだんは、自分の出演作を見ると、ついついあら探しばかりしてしまうというが、今回は違った。
「もちろん、つねに反省点はあるんです!(笑) でも今回は、それを忘れさせてくれるくらい、自分にとっていい経験になりました。被爆した方たちが、その後、どう暮らしているかということも作品を通して知りました。今はこの作品に主演できたことを、とても誇りに思っています」
見る人それぞれが、登場する人物の誰かに共感できる映画だとも彼女は語る。
「被爆を体験した方々のその後を、淡々とつづっています。じつは、そういう淡々とした日々の積み重ねが、人の人生なんですよね。人それぞれが悩みを抱えていて、いろいろな人と出会って、つなぎ合って、支え合って生きている。フィクションではありますが、まるでドキュメンタリーであるかのようにリアルなんです。私は石橋(蓮司)さんの役が胸にグッときました。今の日本に伝えたいメッセージがたくさん詰まっている映画です」
今回、ロケが行われた長崎も、彼女にとって大好きな都市のひとつになった。
「長崎は今回、初めてだったんですが、皿うどんがおいしかったです! ふだんはロケ弁などが多くて、どうしても野菜不足になりがちですが、長崎ちゃんぽんも皿うどんも、野菜がいっぱいだったので、ありがたかったです。また食べに行きたいですね」
ちなみに彼女、泊まりのロケ先には、必ず「洗濯板」を持参することで知られている。
「もちろん今回も持って行きましたよ(笑)。私はおばあちゃん子だったので、何でもおばあちゃん流なんです。いろいろな大きさの、木製の洗濯板を6個持っていて、使い分けています。お風呂場でチャチャッと洗えるし、襟や袖口の汚れもきれいに取れるし、水も少なくて済むし、ちょっとしたまな板代わりにもなるし……泊まりのときには欠かせません」
祖母はよく戦争の話も聞かせてくれたという。今回の撮影中もそのことをたびたび思い出したそうだ。
「この作品のように、過去の体験を語り継ぐのは、大切なことだと思います」
■プロフィール
きたの・きい☆’91年3月15日生まれ、神奈川県出身。’07年、初主演映画『幸福な食卓』で第31回日本アカデミー賞新人俳優賞ほかを受賞。おもな出演作に映画『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』『ラブファイト』(ともに’08年)『ハルフウェイ』(’09年)などがある。ドラマ、CMなどにも多数出演。
■告知など
映画
『爆心 長崎の空』
監督/日向寺太郎 東劇(東京)ほか全国公開中。公式サイトhttp://www.bakusin-movie.com©2013「爆心 長崎の空」パートナーズ