「過去に戻れるなら、高校3年生がいいなぁ。学園ドラマみたいないい時代だったから」
舞台『裏小路』で、高校教師の宝田を演じる吉田栄作。現代日本が抱える問題をテーマに作品を生み出す新進気鋭の社会派劇作家・中津留章仁(なかつるあきひと)氏が作・演出を務めた。
物語の発端は、ある高校の女子生徒の自殺。原因はいじめか、体罰か。弁護士(秋野暢子)がPTA側の意見を聴取し、教師たちを追及する。
「中学校の先生になった友人がいるんです。僕らが育ったころなら、言うことを聞かない生徒をボコボコにしていそうな体育会系の友人なんだけど、彼が『生徒に手を出すなんてありえない。当時とは違うんだよ』って。僕たちが好きだった体育教師は、優しかったけど、本気で怒ると怖かった。いじめも、命にかかわるような大きな間違いはなかった」
今作のテーマは、中津留氏と彼との、そんな会話から形になっていったそうだ。
「宝田は、僕自身。自分の思いを投影していくつもり。でもね、僕みたいな考えの教師は、今の学校では生きていけない。だから宝田は、生徒の死をきっかけに、追いつめられていくことになるんだけど、舞台を見る人には、これじゃ日本はダメになっていく、と気づいてほしいな」
数年前に彼は、高校3年のときの同窓会に顔を出したことがあるという。じつは高校時代、そのクラスでは大事件が起きたそうだ。「犯人は誰だ?」と当時、数人が職員室に呼び出され、先生たちから詰問された。
「そのとき『俺がやりました』と言ったんです。真犯人だった友人は、就職先が内定していたから、大変なことになるでしょ」
そのときの同窓会で、当時の担任に「本当のところ、あの事件の真犯人は誰だったんだ?」と聞かれ、「あぁ、こいつですよ」と隣にいた友人を指して答えたそうだ。
「先生は『そうか、最後まで俺がやったと言い張っていたから、今日まで信じてたよ。噓をつく奴やつじゃないからな』って。うれしかったな(笑)」
仲間同士の友情や、教師と生徒の間の信頼がそこにはあった、と当時を振り返る。
「最近のニュースを見ると、教育に限らず、何かがもう遅いような気がしてるんです。でも、自分が生きている限り『NEVER TOO LATE』と信じたい。今回の舞台では、そんな思いを表現していければいいと思います」
■プロフィール
よしだ・えいさく★’69年1月3日生まれ。神奈川県出身。’88年、映画『ガラスの中の少女』でデビュー。’90年代には多くのトレンディドラマに出演。おもな出演作にドラマ『だんだん』(NHK連続テレビ小説)、映画『亡国のイージス』(’05年)、『真夏のオリオン』(’09年)、舞台『オットーと呼ばれる日本人』(’08年)、『ローマの休日』(’10年)などがある。
■告知など
舞台
『裏小路』
10月17日(木)~22日(火)、東京・紀伊國屋ホールにて。詳細はhttp://www.tomproject.com/peformance/top.htmlまで