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東京、名古屋で公演され人気を博した、21世紀歌舞伎組の『新・水滸伝』が、大阪で初上演される。中国の古典『水滸伝』をベースに、役人の汚職が横行する北宋時代、豪傑たちが「梁山泊」に集い、悪徳役人たちを討って国を救おうとする物語。主役の林冲(りんちゅう)を務めるのは、市川右近だ。
 
「林冲は、兵学校の教官まで務めながら、悪政のため無実の罪で投獄されました。脱獄に手を染め、妻や生徒たちも裏切り、泥沼に落ちた生きる屍しかばねのような存在になっているんです。舞台はそこから始まるのですが、梁山泊の人々の生きざまに触れ、やがて『替たい天行道(てんぎょうどう=天に替わって道を行う)』の気持ちを取り戻し、仲間たちと再び立ち上がっていきます。逆境にあっても、仲間たちに励まされ、力強く再起を誓う。そうした『蘇よみがえり』が舞台のテーマのひとつです」
 
アクロバティックでスピード感ある立ち回り、そして胸がキュンとなるような恋物語もあり、見どころは満載だ。
 
「今回も、観客席と一体化できるような、劇場の特性を生かした『大阪・新歌舞伎座バージョン』の演出を考えています」
 
21世紀歌舞伎組は、「歌舞伎界の風雲児」と呼ばれた三代目市川猿之助(現・二代目市川猿翁)門下の若手俳優を中心に「若い人の力で明日の歌舞伎を模索、創造しよう」という目的のもと、’89年に誕生した。新歌舞伎座は彼らにとって、’10年9月に劇場のこけら落とし公演を担った、思い出深い地でもある。
 
「私自身、大阪出身ですし、思い出が濃縮されたこの場所で、こうしてまた公演ができるのは非常にありがたいこと。身が引き締まる思いです。21世紀歌舞伎組は、みんな歌舞伎が大好きで、立派な役者になることを夢見て集まったメンバーばかり。師匠(猿翁)は『こんな時代だからこそ、エンタテインメントの持つ力が明日への大きな希望になる』と語っています。毎回の舞台を、一世一代のつもりで真摯に演じ、歌舞伎の魅力を伝えていきたいと思います」
 
スケールの大きな舞台だけに、体調管理も重要だが、気をつけていることは?
 
「いつもそうですが、お客さまからの熱い声援がいちばんの元気のもとなんです。声援をいただくと、ストレスとか疲れとか、そういったものはいっさい忘れているんですよね。お客さまからのエネルギーを、感動や希望へと昇華させることができるよう、すてきな舞台にしたいですね」
 
■プロフィール
いちかわ・うこん★’63年11月26日生まれ、大阪府出身。父は日本舞踊飛鳥流家元の飛鳥峯王。’72年、8歳で初舞台を踏み、’75年に11歳で市川猿之助の部屋子となり、市川右近を名乗る。歌舞伎界の第一線で活躍する傍ら、ドラマの出演やオペラの演出も手がけている。
 
■告知など
舞台
『三代猿之助四十八撰の内 新・水滸伝』
 
8月5日(月)~27日(火)、大阪・新歌舞伎座にて。問い合わせは新歌舞伎座テレホン予約センター(☎ 06 ‐7730‐2222)まで写真提供=松竹株式会社

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