今年のロンドン五輪から、初めて正式種目となる女子ボクシング。お笑いコンビ”南海キャンディーズ”の山崎静代の挑戦もあり、がぜん注目を集めたが、しずちゃんを含め日本人女子は全員予選で敗退。日本女子初出場はリオ五輪まで持ち越しとなった。そんななか、山梨県甲府市でボクシングジムと食堂を経営している仲田夫妻の娘たち、幸都子さん(16)、輪幸さん(14)、幸希七さん(9)が「甲州3姉妹」と呼ばれ、日本女子ボクシング界期待の星となっている。

仲田さん一家は、夫婦に子ども7人、孫4人といういまどき珍しい大家族。甲府市内で食堂処『幸楽』を2店舗と、ボクシングジムを経営している。’03年の夏に、父・仲田久吉さん(62)がいきなりオープンしたジムだが、この9年間はずっと赤字。ジムの経営は元世界王者でも難しいといわれるが、久吉さんはプロの試合に出たこともない。

それでも、仲田家の娘たちは父の猛特訓のおかげで、どんどん強くなっている。二女の幸都子さんは、昨年世界3位、今年4月には日本一に輝いた。いっぽう母・晴美さん(48)は、ジムにも試合にも、いっさい顔を出さない。それはなぜか……。

久吉さんと結婚して30年。食堂の仕込みは、結婚当初の朝5時から6時になったが、それから深夜2時まで働き通しの晴美さんの生活は、今もまったく変わっていない。唯一の楽しみは、夜11時に店を閉め、帰宅後、洗濯機を2回まわし、朝洗って干した洗濯物を畳みながら見る韓流ドラマだ。店を空けるわけにはいかず、子どもたちの試合を見たことは1度もない。食堂の売り上げは、赤字続きのジム経営を支えてもいるのだ。

〝鬼トレーナー〟の久吉さんだが、年ごろの娘たちに手を焼きぎみだ。それでも「俺は嫌われてもいいと思っています。娘たちがどんなに嫌がっても、責任を持って、俺の手でオリンピックに出す。それが俺の戦いだし、家族全員の戦いなんです」と語る。晴美さんは、オリンピックへの夢を応援しながらも、友達との交流など娘たちの〝フツーの女の子〟の部分を尊重してきた。そんな両親の間で、3姉妹は伸び伸びと育っていった。そんな3姉妹の五輪出場の可能性を、第5代WBC世界女子ライトフライ級チャンピオン・富樫直美さん(36)に聞いた。

「以前、幸都子選手とスパーリングをしたことがあるんですが、その技術の高さには驚きました。ただジュニアのトップが、『社会人の大会でこのあたりまで行けるだろう』という物差しが全くないのが今の女子ボクシング。大切なのは、本人のやる気が”どこまで本物か”ということだと思います」

日本一決定戦で優勝したとき「試合に勝って、お父さんの顔を見たら、泣いていた。泣いてくれて嬉しかった。ウチが勝つことで、お父さんには、これからいくつもプレゼントができると思いました」と、幸都子さんは言っていた。家族のためなら頑張れる。母・晴美さん譲りのど根性がきっと、3姉妹を”世界のリング”へと羽ばたかせてくれるに違いない――。

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