「高さ1メートルの津波でも、足元に迫ってきたら避難は難しいでしょう。津波に巻き込まれた場合、死亡率が限りなく100%に近くなるという国の発表は、あながち間違っていません」と話すのは、津波に詳しい名古屋大学大学院工学研究科の川崎浩司准教授(42)。
8月29日、政府は南海トラフ巨大地震の被害想定を発表した。南海トラフの”トラフ”とは海底の長細い窪んだ地形のこと。南海トラフはフィリピン海プレート(岩板)がユーラシアプレートに沈み込む場所である。ひずみの蓄積が限界に達すると、陸側のプレートが跳ね上がり、約100〜150年間隔で、東海、東南海、南海地震を繰り返す。
大地震が30年以内に起きる確率は東海で88%、東南海で70%、南海では60%あるとも発表された。驚くべきはその死者・行方不明者数で、巨大な津波も発生した場合、最大で東日本大震災の約17倍、32万人超もが犠牲になると想定された。
静岡県御前崎市の浜岡原発は最大19メートルの津波に襲われると予測されている。
現在建設中の防波壁は18メートルしかなく、そもそも津波の破壊力は防波壁を砕いてしまうほどとも考えられている。
中部電力は、原子炉や使用済み燃料プールの安全維持に問題はないとの報告をまとめている。しかし同原発には、運転停止中の現在でも発熱の続く使用済み燃料が多く残っている。
「浜岡原発から200キロ圏内には、静岡や名古屋、東京も入ってしまいます。300キロなら、大阪や京都、神戸も入ります。福島第一原発のように、万が一メルトダウン事故が起これば、偏西風に乗った放射性物質は、そのまま東京上空までやってくることになるでしょう」(防災ジャーナリスト)
また、防災問題に詳しい公益財団法人市民防災研究所の伊藤英司さんは、次のように警鐘を鳴らす。
「東海道新幹線や東名高速道路が不通で往来が分断されると、支援が被災した地域に届きづらくなります。現地の自家用車やトラックもガソリン不足で使えなくなるでしょう。おそらくヘリコプターなどを使った空路での支援しかできなくなります。しかし、あまりにも広域となると、支援の手が届くまでに相当の時間がかかってしまう可能性が高いでしょう」
“日本沈没”の地獄絵図は、映画だけの話ではなかったようだ。