「ずっとウチの売り場で買ってくれてる画家の人が、昨年の年末ジャンボでたしか100万円当たってね、そのお礼にと描いてくれたんですよ」とうれしそうに「大当たり」と書かれた肖像画を手に話すのは『浅草橋東口駅前売場』の森秀夫さん(81)。
ここはジャンボの1等賞金が1億円になった‘96年から「億」が14本出ているという、都内有数の大当たり売り場。森さんが宝くじを売り始めたのは、終戦から半年ほどたった昭和21年3月。それから66年間、今も現役で売り場に立つ全国最古参の販売員だ。
「最初の1等当せんは、売り場すぐそばの駅のガード下で喫茶店をやってた老夫婦。戦後すぐは1等賞金が10万円で毛布かなにかの副賞付き。10万円はいまのお金なら5千万円くらいですかね。当たったお礼にと、浅草・浅草寺で買った縁起物の打ち出の小槌をもらって。以来、ずっと売り場に飾ってます」
9月24日からは、オーダムジャンボ宝くじが発売される。そんななか森さんが、66年にわたって見続けてきた“宝くじ長者”たちについて話してくれた――。
「66年だからね、何百人かな?いろいろな高額当せん者を見てきました。ある30代のサラリーマンは、いつも上司に従順だったのに、億が当たったとたん会社をやめて独立した。でも結局うまくいかなくて一文無しになったとか……」
一方で、宝くじに救われた人たちもいたという。
「昭和45年ごろでしたか、ヨレヨレのオーバーを着た初老男性が『1千万円ないと会社が倒産してしまう』と言いながら、10枚買っていったんです。それからしばらくして、売り場の前に高級車が止まり、パリっとした紳士が降りてきて『2千万円が当たった!おかげで命拾いしたよ』と握手してきた。誰かと思ったら、あのヨレヨレのオーバーの男性!本当にお金に困っているとき、宝くじの神様は願いをかなえてくれると実感しました」
近所の会社の同僚8人組で5~6年間、グループ買いをしていた常連さんにも福は舞い降りた。いつもハズレでも『おじいちゃん、またダメかな~』とボヤきながら通い続けた8人。最後にやって来た日は、彼らの会社が倒産したことを知った直後だった。
「平成17年のサマージャンボだったと思います。1等後賞5千万円を獲得したそうで、日本酒『久保田 萬寿』を持って挨拶に来てくれた。人生、沈む瀬あれば浮かぶ瀬ありですね」