朝ドラを、40〜50代男性たちが録画して見る、という現象を生み出した大きな要因の一つに、主人公のアキの母・春子(演じるのは小泉今日子)が10代を過ごした隠し部屋の存在があるだろう。松田聖子やチェッカーズのポスターが貼られ、’80年アイドルのトリビア部屋でもあるファン垂涎の部屋だ。みごとにこの部屋を作ったのが、美術の岩倉暢子さん(35)だ。
「小袖の漁師の方の家の2階に隠し部屋があって、これだ!と思いました。まさにタイムカプセルを発見したような体験でしたね」
メーンの仕事は撮影セットのデザインで、喫茶リアスや駅舎のデザインなども「実際に久慈の駅やスナックでカウンターの実寸を測ったりして」彼女が手がけたという。さらに彼女は思いつく端から何でもどんどん絵にしていく。「潮騒のメモリーズ」のイラストや衣装も。まめぶのキャラも、北鉄駅のポスター、海女カフェや海女―ソニックのロゴデザインまで彼女の作品。
「演出家が話すことを私が絵に描いて、それをたたき台にしたほうがイメージしやすいし、打ち合わせも早い。1要求されれば私は10も20も返せるように」と、自分でどんどん仕事を増やしてしまうタイプ。でもそこまで岩倉さんを夢中にさせたきっかけは、主演の能年玲奈(19)にあった。
「初対面の能年さんは、フワフワでまるで生まれたての赤ちゃんみたい。その印象が変わるのが昨年9月、久慈の海のロケでした。もう一言、ど根性ですよ。あんな冷たい海に飛び込んだだけじゃなく『まだ、行けます!』って、あの姿をみたとき、このドラマはきっとすごくなるって思いました」
キャストもスタッフも相乗効果で高め合う、理想的なスパイラルが『あまちゃん』を高く高く押し上げているようだ。