現在公開中の映画、福山雅治主演『そして父になる』。この物語は沖縄で起こった、新生児取り違え事件がモデルになっている。

「映画では、取り違えが発覚した、まだ子供たちが小さいころが描かれています。事件の本当の解決には、それからまだ、長い年月がかかったんです」

 こう語るのは島袋美由紀さん。今年で42歳になった。’71年8月、同じ病院で生まれた稲福真奈美さんと、取り違えられて親に引き取られた。

 小学校入学を前に受けた血液検査で、取り違えが発覚。まもなく、2人とも6年間の育ての親のもとから生みの親に戻され、それぞれの姓も変わった。美由紀さんは「当時は、『私には、お母ちゃんが2人いるんだよ』と言っていました。それがちょっと自慢だったんです」という。

 しかし、高校を卒業すると美由紀さんは沖縄を出て、東京の大手量販店に就職した。

「沖縄は狭くて、すぐに『あの取り違え事件の?』って同情される。でも東京には私の過去を知人はいない。それでホッとできたんです」

 東京で10年働いたころ、実の父が脳梗塞で倒れた。知らせてくれたのは、育ての母のスミ子さんだった。美由紀さんは介護するために、東京を引き払い、沖縄へ戻った。生活のためマッサージの資格を取り開業。そのマッサージ店は、育ての親が経営する重機リース会社の敷地内にあるプレハブだった。

 結婚し、重機リースの家業を手伝う育ての親の子・真奈美さんが3人の子どもを連れて、出勤してくる。忙しく働く真奈美さんの代わりに、美由紀さんが子供たちの面倒をみた。小学校入学前に、実の家の戻った女の子同士は、大人になってから、姉妹のように助け合うようになったのだ。美由紀さんの育ての親・スミ子さんはしみじみ言う。

「取り違え事件は、神様が私に、2人の女の子を育てなさいと与えてくれたものだと思うんです」

 昨年10月、美由紀さんは結婚した。そこへノンフィクションドラマの声がかかった。そのドラマのスタッフの提案で、まだ挙げていない美由紀さんの結婚式を撮影することになった。「だったら10年前に入籍だけして式を挙げていない真奈美も一緒に挙式を……」という美由紀さんの提案が通り、9月に合同結婚式が開かれた。

 そのもようは、ドキュメントドラマ『ねじれた絆 〜赤ちゃん取り違え事件 42年の真実』(フジテレビ系10月11日予定)でも紹介される。

「そんな私の奇妙な提案を『どうせならもっと若いうちにやってほしかったよ』って冗談めかしつつ、受け入れてくれた真奈美に、本当に感謝しています。これでようやく、あの事件も精算できたのかな」(美由紀さん)

関連カテゴリー: