9月6日、映画『イヴ・サンローラン』が公開される。主演俳優ピエール・二ネは劇中で、故サンローランの華々しいキャリアの陰にあった、表現者ゆえの孤独やプレッシャー、薬物、アルコールへの依存など、多くの苦悩を表現している。
「僕は最初、自分と彼の共通点を探そうとした。でも唯一似ていたのは、若くして自分の職業を決めたことぐらい。彼になりきるには長い準備期間が必要だったよ」
フランス映画界きっての若手演技派と称される彼が役作りにかけた期間は5カ月半。
「第1歩は、彼の独特な声やしゃべり方をマスターすること。iPodで1日3〜4時間彼の声を聴き、過去の映像をたくさん見て、勉強したよ。彼のパートナーだったピエール・ベルジェやブランドのミューズだったベティ・カトルーなど、サンローランをよく知る人たちにも話を聞き、それと平行して3人のコーチの指導も受けた。デッサン、フィジカル、デザイン&ファッションの専門家。コーチのおかげで、スタントなしでサンローランのデザイン画が描けるようになったよ」
緻密な役作りの結果、彼はサンローランのルックスと繊細なキャラクターを完璧に再現することに成功。ピエール・ベルジェは「本人かと思った」とコメント、サンローランの愛犬までもが彼を本人と間違えたというのだ。
「その話は本当だよ。サンローランが実際に使っていたオフィスでテスト撮影を行っていたとき、僕がサンローラン愛用のメガネをかけ、衣装とメークをして立っていたら、彼の愛犬が部屋の扉を押して入り、僕の足元に寝そべってしまった。スタッフが何度追い出しても戻ってきて。犬の世話をしている方が『この犬が誰かの足元で寝そべるのは、サンローランが亡くなって以来、初めてのことだ』と教えてくれたよ。サンローランが亡くなって6年もたつというのに、犬の記憶には彼の姿が残っていたんだ。その記憶を僕らが呼び起こしたことに、一同が感激したよ」
この映画の世界的ヒットで注目を浴びているが、素顔はシャイで真面目な青年。今回の来日時、空港で出迎えた日本のファンたちに、丁寧にサインをする姿が目撃されていた。
「空港で女性たちが僕のポスターを持って出迎えてくれたんだ。温かい歓迎を受けて、とてもうれしかったよ」