美しい秋空の下、顔を寄せ合う女の子が2人。まるで姉妹のように見える2人の笑顔からは頂上に到達した喜顔が溢れている。これが愛知県立安城南高校3年生・伊藤琴美さん(18)と、同県豊田市立平和小学校5年の長山照利(あかり)ちゃん(11)の“最後の写真”となってしまった。噴火発生から1週間後の10月4日、照利ちゃんの遺体が発見されたのだ。
豊田市に住む長山家は6人きょうだい。実は登山に行くのは、母と中学1年生の兄の2人だけの予定だった。だが、長山家と親しく近所づきあいをしている女性・Aさんは言う。
「前日の夜、おかあさんが夕飯の支度をしていると、照利ちゃんがそばに寄ってきて、『明日、私も山に登りたいの』と、言ったそうです」
急きょグループに加わった照利ちゃん。17人の一行のなかには“大好きなお姉ちゃん”伊藤琴美さんも参加していたこともあり、大張り切りだったようだ。メンバーの1人だった男性は2人の様子について、こう証言する。
「中高年が多かったので、若い琴美さんと照利ちゃんがどんどん登っていくなか、後続と差が開いていったのです。グループのなかでは2人が頂上にいちばん乗りしましたが、お母さんたちとは30分ほども差がついていたと思います」
頂上で2人は記念撮影。琴美さんの携帯電話で、まだ頂上を目指して懸命に歩き続けている照利ちゃんの母に、写真をメールで送ったのだ。
遺体が発見されるまで1週間。照利ちゃんの母は、ほかの子供たちのことも心配だったのか、一度だけ愛知県に戻ったという。そのときの様子を前出の知人・Aさんが語る。
「お母さんはこの数日でずいぶんやせてしまいましたね。私からは照利ちゃんのことは聞きませんでしたが、お母さんが携帯電話に保存していた山頂での写真を見せてくれました」
噴火の20分前に送られてきていた愛娘の最後の笑顔だった。
「お母さんは『これ、すごくいい笑顔でしょう、可愛いでしょう』って……」
霊峰・御嶽山には、いまも家族を失った人々の慟哭がこだましている――。