『赤い玉、』。男の最後の射精を意味するタイトルを持つこの作品では「老い」と「性」に翻弄される男性と、男性に関わる女性たちの関係が艶やかに描かれている。“生涯現役”とは男性週刊誌で見かけるテーマだが、現実はそうもいかないのだろうか。
みじめに朽ちていく主人公の時田修次を、奥田瑛二(65)が演じている。聞くと、撮影終了後も役柄を引きずっていると話した。
「時田とは、年齢や映画監督という職業など、自分とシンクロしている部分が多かったからね。人生の半ばもとうに過ぎた男の、前途と喪失と悲哀のせめぎあい。そこに対して始末がつけられずにいる。でも、無理に答えを出す必要はないのかなと思うようになって。始末をつけられない部分は、素直に、今後も考え続けなければならないテーマなんだなと思うようになった」
監督は、日本映画初のヘアヌード解禁で話題となった『愛の新世界』の高橋伴明。京都造形芸術大学で映画学科の教授も務める監督は、若い世代が性表現から逃げているという気がして、性表現の場へ連れていきたいという思いもあり、本作品を学生たちと制作することになった。
「監督とは長い知り合いであって、今の日本映画においてエロスが足りないというのはお互い話していたことでもあった。本当は、若い人たちがやってくれればいいんだけど、やらないから、じゃ、じじい2人がつくろうじゃないかと。2人が確信犯としてささやかに、1本の映画を挑戦状じゃないけど、示しだすというのは、言わずもがなの2人のテーマでもあったからね」
草食系と言われる若い男性たちには「オスになれ」というメッセージを投げかけた。
「監督と言ってたことは、いまはすごくオスが少なくなったよねということ。反して女性はいつもメスである。女性は女を磨くけれども、今の男性にはそれがない。そして女の強さに対抗する男がいない。それが悲しいなと」
奥田自身は「赤い玉はまだ出ていないけど、出たら心が痛くなるぞぉ」と苦笑いしながら話すが、体は年を重ねるごとに甘いものを欲しているそうで、クッキーをがぶりと頬張った。
「このクッキーにはほうじ茶が合うね」
家では煎茶をいってほうじ茶をつくることもあるのだそう。気さくでサービス精神が旺盛。人たらしという言葉がぴったり。そんな人だ。