「『ラスト・ナイツ』には、アメリカ、韓国、ヨーロッパ、ノルウェー……17カ国からキャスト、スタッフが参加しています。黒澤明監督の『乱』という、シェークスピアの『リア王』を戦国時代でやられた作品があって、その逆をやろうと思ったんですよ。日本の話を西洋に持っていって、人種関係なく、架空の国をつくろうと。しょせんは同じ人間で、誰かを愛しているとか、悔しい、悲しい、うれしいとか内側で起こっている感情が大事だった」
そう語るのは、隔週連載『中山秀征の語り合いたい人』第50回のゲストで、間もなく公開されるハリウッド作品『ラスト・ナイツ』を監督した紀里谷和明さん(47)。同世代ながら初対面だった2人。最後には飲みに行く約束を交わすほど仲よしに。
中山「『ラスト・ナイツ』に出てくる騎士は、侍でもありますよね。いまは草食系という言葉もありますけど、どういう男が侍だと思いますか」
紀里谷「何が重要かしっかりわかっていて、そのためならすべてを捨てることができる人たちのことだと思うんです。でも、最近は自分のことを第一に考える人が多いのかな。自分の利益のために行動するとか、自分が傷つかないためにひきこもるとか。それが、魅力的に見えないことがあるんじゃないかなって思いますけど」
中山「宇多田ヒカルさんと結婚・離婚して変化などは?」
紀里谷「何も変わらないですよ。本当にシンプルに言うと、ただ人を一人好きになっちゃっただけなんですよ。それ以上もそれ以下もない。結婚という概念もひとつのカタチでしかないから僕にはあまり関係がなくて」
中山「そこに後悔はない、ということですか」
紀里谷「後悔はないですし、そういう人がいて、今もどこかに存在しているだけというか。僕はまず『恋愛』って言葉が好きじゃないんですよ。それってそもそも、自分の好きな人を所有しようとしている気持ちだと思うんです。何で束縛するのかというと、自分のものだと思っちゃうからですよね。そうではなくて、本当に出会えてよかったな、というその一点なんです」
中山「出会っていなかったら気づけなかった感情があったとか?」
紀里谷「それは結婚したから、とかいうことではなく、その前に出会った女性も出会えてよかったと思うし。それは友達も同じです。
中山「そういうのを含めて縁なのかもしれないですね」
紀里谷「僕は本業が裏方なので、あまり媒体に出ないんですね。でもたまに、こういう場に出させていただくと、どうしても興味を持たれてしまう(笑)。たまたまそういう人が有名だった、というだけで特別なことではないですし。皆さんと同じように結婚はひとつの出来事。今日、中山さんにお会いできたことも出来事。そして『ラスト・ナイツ』も過去のことになっていくんです。
中山「でもすべてに意味はあるんですよね」
紀里谷「最期、死ぬときに、全部がなくなっていくわけでしょ。そもそも、すべてなくなるものなんですよね。だから後悔することはひとつもないですよ。そのときどきで、あのときああすればよかったとか、失敗したと思っていたことでも、あとから考えると、つながっていたりするんですよね。なるべく正直に生きられたらと思っています」