「1人の100歩より、100人の1歩前進で、世の中がなんか動いていくと思うんで。次はそんなメッセージを込めた曲です。聴いてください。『One Step』」
1月16日。東京・南青山のイベントホールには、スタンディングの観客150人余りが。そしてステージ上には、黒い肌の3人の男性たち。前奏に合わせて3人は腕を高く上げ、指を鳴らし、手をたたく。曲紹介のMCを務めた男性が天を仰ぐようにしてラップをシャウトするのに続き、ほかの2人の澄んだ歌声が流れてきた。
〈たまたま生まれた国や目や髪や肌の色が
異なってたとしても分かり合えるはずだから〉
音楽に合わせ、体を揺する聴衆たち。目に涙をいっぱいためている女性もいる。日本人の父とガーナ人の母の間に生まれた3人兄弟から成るボーカルユニット、「YANO BROTHERS(以下、矢野ブラザーズ)」。MCとラップを担当するのは長男のマイケルさん(37)、澄んだハーモニーを奏でるのは次男のディビットさん(34)と三男のサンシローさん(32)だ。
彼らは幼いころにガーナから来日して、Jリーガー、モデル、大学生などバラバラに活動していたが、’13年春に兄弟ユニットを結成。日本とアフリカの要素をブレンドした“JAFRICAN”と呼ばれる独自の音楽ジャンルを切り開き、注目を集めている。
現在はライブを中心に活動を続け、’14年には初のミニアルバム『First Step』をリリースするなど着実にファンを獲得してきた。
〈みんなの一つだけの地球 過去のあやまちをいつまでも責めあっても no love〜〉
矢野ブラザーズの曲を貫くlove。だが、かつて「ガイジン」であり「黒人」であることで、差別や偏見を体験した彼らには、その愛を見失いかけた長い葛藤の日々があった。
ライブが佳境に差しかかったところで、ディビットさんはこうスピーチした。
「自分が信じて豊かな人生を目指していけば、必ず、それは誰かの希望になるって思って作った曲です」
愛と希望にあふれたその曲は、『Dream』という。
〈dream 夢を追い続けてゆこう
いつか誰かの涙をぬぐう力になるように〉
「僕たち家族が日本に来て28年、つらいことも多かったけど、それが今、生きているのかなって。同じように道がわからなくなっている人たちに、少しでもキッカケを与えられるような、そんな歌がやれるなら、それはすごく意義があることじゃないかと」(ディビットさん)
偏見、葛藤を経て、歌い上げられる夢と希望のメッセージ。
「僕は夢を追い求めることの大切さを歌にしてる。でも、これって、人を励ましているようで、実は自分が励まされてるなって思ってる」(マイケルさん)