「衣装合わせでカツラをつけた僕に三谷さんが兄役の『草刈さんと似ているね』と言ってくれました。家族に見えるのは大事なことです。ただ草刈さんの芝居のタッチとはかぶらないようにしています」
こう話すのは、NHK大河ドラマ『真田丸』で、昌幸(草刈正雄)の弟で信繁が憧れる叔父・信尹を演じる栗原英雄(50)。テレビドラマ初出演にして重要な役をつかんだ遅咲きの花だ。三谷が栗原の舞台を見たことが抜擢のきっかけとなったという。
「昨年、出演したミュージカル『タイタニック』を三谷さんがご覧になり、『彼がすごくよかった。テレビに興味がないのかな?』と、共演者に話したそうです。僕も『興味あります。何かあればよろしく』と、伝言を頼んだのですが、まさか『真田丸』に出演できるとは……。20代前半だったら舞い上がっていたかもしれませんが、30年近く役者をやっているので、すぐに文献を探したり、乗馬などの準備を始めました」
栗原は18歳から「劇団四季」に25年間在籍した人気ミュージカル俳優。
「三谷さんは、舞台で僕が演じたクールなところが、戦国時代に冷静に時局を見つめる信尹につながるとおっしゃっていました」
撮影が始まると、これまでの経験が生かされたという。
「主演の堺(雅人)さんはフランクで飾り気のない人。言葉への鋭い感覚を持っています。僕が劇団で習っていたアイウエオをきちんと発音する『母音呼吸法』について聞きに来てくれました。今までやってきたことは、舞台以外にも生かせると実感しました」
信尹は、兄の命を受けて各大名家に交渉に行く役目を務める。そのため共演者たちとは、あえて距離を置いた役作りをしているそう。
「共演する皆さんのフィールドにのみ込まれないようリスペクトしながらも、くだけないでちょっと距離を保つよう心がけています。僕はつい相手の目の奥を見てしまうんですよね。上杉景勝役の遠藤(憲一)さんは、目の奥でいろいろ考えながら、お芝居はとてもシンプルな表現をされていて『盗もうかな』と思いました(笑)。本多正信を演じる老獪な力が抜けた近藤正臣さんのお芝居も盗みたくなりました」