「はなし家の先輩方から言われるんですよ、『亡くなった先代の三平師匠に似てきたねぇ。黒紋付を着て楽屋にいると様子がそっくりだし、高座ではちょっと猫背な感じで』って」
父親である初代の林家三平師匠が54歳の若さで亡くなって35年。今年の暮れには、自らもその年齢になる落語家の九代目林家正蔵(53)。
“昭和の爆笑王”として人気を博した故・三平師匠といえば、指をすぼめた手を額に当てて「どーもすいません」とトホホな表情で言うしぐさが懐かしい。父親のそのポーズを正蔵は山田洋次監督作品『家族はつらいよ』(3月12日全国ロードショー)で披露している。先代の三平師匠の芸を知る世代なら和むに違いない。
「監督の提案で、試しにやってみたの。ワッハッハと爆笑されてました(笑)」
本作は、’13年の映画『東京家族』で家族を演じた8人の俳優たちが再結集し、結婚50年の平田家の涙と笑いの日常を描く。物語は、妻(吉行和子)に夫(橋爪功)が誕生日プレゼントに欲しいものを尋ねると、間髪入れずに返ってきた答えが「離婚届!」だったことから始まる。家族の日常とはこんなもんだなぁ、と思えるディテールの面白さ。夫、妻、息子、嫁、娘、娘婿、孫らの思惑が手に取るようにわかる。
「82歳のおふくろ(海老名香葉子)、嫁、姉(泰葉)と一緒に試写を見て大笑い。夕食のときも楽しかった映画の話で持ちきりでした。でね、おふくろがボソッと『映画より海老名家のほうがつらいわよね』って(笑)。おふくろは戦後の銀幕の世代。おやじとの初めてのデートは『天井桟敷の人々』だったそうで。映画に思い入れがありますから、最後に僕の名前を見つけて『夢のよう!』と大喜びでした」
海老名家の長男としてつらいのは?
「おふくろと嫁、それぞれの立場から話を聞かされるのは僕でしょ。嫁には『そりゃおふくろが悪い』、おふくろには『嫁がいけないな』と板挟み。まさに“男はつらいよ”ですよ」