夫以外の男とのセックスは、どうしてこんなに楽しいのだろうか−−’95年に小説として発表され、話題を呼んだ林真理子さんの『不機嫌な果実』。ドラマ化されるやセンセーションを巻き起こしたが、その傑作が約20年ぶりに復活する
’16年版『不機嫌な果実』(テレビ朝日系・毎週金曜23時15分〜)で主人公・麻也子を演じるのは栗山千明。セックスレスの主婦・麻也子が、あっけらかんと不倫していく物語は、’16年の今でもタイムリーなテーマだ。今回、原作者である林真理子さんに「なぜ、いま『不機嫌な果実』なのか」を存分に語ってもらった。
「私は“夫選びを間違えたのかも”“私ってついてない……”と、女の真実の声を赤裸々に書きましたが、当時は『下品だ』『女はこんなんじゃない』と物議を醸しました。今回のドラマでは原作に加えて、麻也子以外の女性も恋をしたりと、不倫に一般性を持たせて現代性が加味されています。
麻也子は、割り切って性的に満たしてくれる情事の相手を探し、また別の男性とも恋に落ちます。この情事と恋の境は、会ってすぐにホテルに行くのが情事。2人でご飯を食べたり散歩したり、共通の時間を持つのが恋だと思います。そして世の奥様方も“不倫をしたい”わけじゃなく、“恋をしたい”が本音なのではないでしょうか」
女の本音は時代を経ても変わらないが、男女のつきあいには時代の変遷があるという。
「昔はバブルの薫りがまだ残っていたので、ワイン、ホテル、高級フレンチと、男性もお金を仕える時代でしたし、男女の優雅な心理的かけひきもあり、情事もエロティックでした。
経済格差もある今は、お金が使えないのが寂しい。ラブホテルでコンビニのお弁当を食べたり、その部屋代ももったいないと、どちらかの自宅で肉体関係を持つことも多いようです。居酒屋で会ってすぐに『さあ行こうか』というのはもはや情事とはいえない猥雑な感じがしますね」
しかし林さんは、それでも女性たちは“上質な恋”を望んでいるのではないかと語る。
「そのためにはお金もかかる、知恵もいる、本人の美意識も必要なのです。麻也子は都会の女子大を出て、そして男の見定め方を学んでいます。リスクを伴う不倫でいちばん大切なのは相手選びなんです。ゲスという言葉は好きではありませんが、“ゲス不倫”は相手を間違えたのでは。
ひとつ言えるのは、不倫する女性も増えているけれど、恋愛格差も生まれているということでしょうか」
ネットで人をたたく不寛容な社会でもある昨今、読者には、「甘い果実をほどほどに味わってほしい」と林さんはいう。
「かつて渡辺淳一先生が、『自分の過去をたどるとき、たとえば30代に自分がどんな仕事をしていたかじゃない。どんな人とつきあっていたかで、自分の年表は刻まれるんだ』と素敵なことを仰ったんです。
今の40代、50代はまだ若く美しい。かつての恋愛の記憶がある恋愛格差の“上の人”たちだと思います。ぜひドラマの恋愛模様を見ながら、ご自身の“甘い恋の年表”と照らし合わせてみてほしい。それが甘い果実をほどほどにってことです。とはいえ、不倫に覚悟と自信がある人には『最後までどうぞ』と、私は止めませんけれど(笑)」