連続テレビ小説『べっぴんさん』の第19週、無断で東京に行こうとしていた娘のさくら(井頭愛海)をジャズ喫茶「ヨーソロー」でみつけるすみれ(芳根京子)。ドラム奏者としてプロを目指していた二郎(林遣都)は東京のスカウトから誘いを受けていたが、すみれに促されたさくらから恋人の五月(久保田紗友)が妊娠していることを伝えられる。五月が姿を消した本当の理由を知った二郎は、すぐに五月がいるすみれたちの家を訪ねる。
そのころすみれの家では、五月が喜代(宮田圭子)に編み物を教わっていた。「よう一人で育てようと思いましたね」と喜代。出産への不安を抱えなる五月に「幸せになれますよ……。どんなにつらいことがあっても、赤ちゃんにとってたった一人のお母さんは自分なんやって見失わないことです」と優しく語りかける。
そこに、すみれと夫の紀夫(永山絢斗)がさくらを連れて帰ってくる。さくらが家を出て以来久しぶりの再会を喜ぶ喜代は、さくらの無邪気な笑顔をみて安心する。ところが二郎も一緒にいると知った五月は別室に駆け込み、会おうとしない。「五月、言うとったよな? お父ちゃんが生きとったら、きっと人生違ったやろうなって。その子かて、同じような思いするかもしれへんやないか」。ドア越しに自分の思いを伝える二郎。しかし五月は「子供は一人で育てる
と言い、二郎の夢の邪魔はしたくないと気丈に告げる。「プロのドラマーになって、聴く人みんなの心を震わせて。音楽で人に希望を与えて。そんな夢を叶えてよ」と五月。
一方、二郎に思いを寄せていたさくらは、五月と二郎が強い愛で結ばれている様子を目の当たりにし、打ちのめされる。「失恋しちゃった」とさくらを抱きしめるすみれ。そのとき、近江の忠一郎(曽我廼家文童)からの電話が入る。それは、父・五十八(生瀬勝久)が倒れたとの知らせだった。
すみれの一家と姉・ゆり(蓮佛美沙子)の一家は、近江の実家に駆けつける。心臓の病に侵された五十八は寝込んだまま目を覚まさない。夢の中で亡き妻・はな(菅野美穂)と話をする五十八。男手ひとつでよく子育てを頑張ってくれたと感謝するはなに、五十八は「はなとの約束、わしは、はたせたんやろうか」と訊ねる。すると、はなはこう語るのだった。「あの子たちをみてください。今のゆりを、すみれを。五十八さんは十分、立派にはたしてくださいました」と。
翌日、目を覚ました五十八は、すみれとゆり、それぞれの夫の紀夫、潔(高良健吾)、使用人としてずっと仕えてきてくれた忠一郎と喜代らに思いを伝える。
戦後、五十八の会社「坂東営業部」を立て直し、現在は洋服メーカー「オライオン」社長として経営に奔走する潔に感謝する一方で「絶対、焦ったらあかんで、君らしくやで」と諭す五十八。紀夫には「すみれと一緒になってくれてありがとう」と、孫の正太には「ぎょうさん食べて大きくなれよ」と声をかける。そんな五十八を、涙を流しながら見守るすみれたち。
「ゆり、ほんまにええお母さんや。今のお前は、優しくて、強くて、はなそっくりや」と五十八。続いてすみれに「お前の人生は輝いている。大勢の人を笑顔にできる生き方なんて、そうそうないで」と思いを伝えると、さくらにこう語り始める。「おじいちゃんな、そんな生き方してるお前のお母さんが誇らしいんや。うれしゅうてうれしゅうてしょうがないんや、親として。さくらにも、光り輝く人生を送って欲しい」と。
五十八からの言葉を受け、自分の居場所を探し始めるさくら。幼なじみの健太郎(古川雄輝)や龍一(森永悠希)と一緒に「キアリス」でアルバイトをすることに。気乗りしないさくらだったが、すみれの仕事に対する姿勢や商品に込めた深い思いを知り、変わり始める。ある日、すみれたちのもとにメリヤス工場の橋詰から手紙が届く。「キアリス
のベビー服を身にまとった孫と一緒に撮った写真と感謝の言葉が綴られた手紙を読み上げながら微笑むすみれ。さくらの脳裏には、五十八の言葉が浮かぶのだった。一方、二郎はプロのドラム奏者になるという夢をかなえるため東京に行くことを決意する。
潔は、かつて闇市で苦楽をともにした盟友・栄輔(松下優也)から業務提携の話を持ちかけられ、悩んでいた。若者に大人気の「エイス」ブランドの圧倒的な集客力に魅力を感じていた潔。そうして「オライオン」と「エイス」の合併の話は、大急百貨店の社長・大島(伊武雅刀)も知ることとなる。
大急百貨店の応接室で、大島社長とともに潔を待つ栄輔。現れた潔に合併の話に乗るかどうか訊ねると、潔は「断らせてもらいます」と答える。集客力が落ち込んでいる「オライオン」が「エイス」と組めば一足飛びで前進するのに、なぜ断るのか?と詰め寄る栄輔の部下の玉井(土平ドンペイ)。潔は実感がなければ前進ではないと言い、「成功に苦労はつきもんや。苦労したぶんだけ、喜びも大きくなるとわしは信じてる」と栄輔を諭す。
すると、大島社長が栄輔に問う。「君の成功とは?」。栄輔は日本中の男性をおしゃれにしたいと言い、「そして、男たちをかっこよくしたのはわしや、と。これからの時代の男になりたい」と答える。続いて、潔にも同じ質問をする大島。先代の思いを引き継ぎ、守ることだと言う潔は「社員と家族が幸せであること。そして、一生を楽しく生きることです」と返答する。かつて兄のように慕った潔とは進む道は違うと知り、その場を去る栄輔。
「寂しくないのか?」と大島に問われ「好きで面倒みてきたんです。そいつがあないにでっかくなった。嬉しいやないですか。感謝するのはわしの方です」と笑う潔。一方、応接室を後にした栄輔は「なんで、簡単に諦めたんです?
と玉井に責められるが「やっぱり、潔さんはかっこええなあ」とつぶやく。
そのころさくらの提案で「キアリス」で働くことになった五月。恋人の二郎にプロのドラム奏者になってもらうため、一人で子どもを産み育てようと心を固めていたが、次第に不安が募っていく。「泣いても笑っても、この子には五月さんしかおらんのよ!」と励ますさくら。明美から二郎がジャズ喫茶「ヨーソロー」で演奏するのは今晩で最後だと聞いたさくらは「ヨーソロー」に駆け込む。
「ヨーソロー」のオーナー・すず(江波杏子)に退職の挨拶をする二郎。突然店に現れたさくらに続いて、一人の少年が飛び込んできた。「お父ちゃんがおらんようになった!」。そう泣き叫ぶ少年は二郎の弟で、二郎が東京に行ってしまったら自分たち家族は生きていけないと訴える。「東京なんか行かんといて!」と泣いてすがりつく弟を前に「くそっ、なんでこんな運命なんや」と二郎。するとさくらは「愚痴を言うてどうするの?」と二郎を叱咤し「運命から逃げずに、立ち向かうためにはどうしたらいいのか考えてください
と説得するのだった。
その翌日、「キアリス」に出勤した五月は、弱音を吐いてしまったとすみれたちに詫びる。戦後の厳しい状況下で出産・子育てをしたすみれと良子(百田夏菜子)、君枝(土村芳)は五月を優しく励ますのだった。「お母さんたちや赤ちゃんのために、って。それがこのキアリスの始まりやったのよ」とすみれ。「音楽が好きな子に育てたい」と話す五月のため、生まれてくる子の肌着にト音記号や音符、リスが歌って踊る姿を刺繍しようと提案する。
さくらたちの夏休みの終わりが近づいたある日。「キアリス」に二郎が訪ねてくる。東京に行くのはやめたと五月に告げる二郎。「わしは自分を必要としてくれる場所で、愛する人と生きたい。音楽なんてどこででもできるから」と言い、不安にさせて悪かったと詫びるのだった。泣きながら二郎の胸に抱きつく五月。さくらは目からぽりぽろと涙をこぼしながら、「こんな嬉しいこと、生まれて初めてやわ」と笑うのだった。
すみれやさくらたちの思いに支えられ、家族となることを決めた二郎と五月。「ヨーソロー」のすずは引退してお店を二人に譲ることに。「ベイビーが幸せを運んできてくれるで」と五月と二郎を抱きしめるすず。
年が明け、臨月を迎えた五月は、明美や良子、君枝の助けもあり、元気な男の子を出産する。我が子を抱いた五月は「こんにちは。会いたかった」と微笑みかける。幸せに包まれる坂東家だったが、そこに近江の坂東家から知らせが届く。
五十八が亡くなったことを知ったすみれは、大粒の涙がこぼしながら、心を整理するかのように何度もうなずく。「近江に行こう」と紀夫。支度を終えて家を出ようとしたとき、さくらがすみれに声をかける。「お母さん。私、自分がどれだけ愛されてるのか、幸せなのか、気付かなかった」とさくら。そして、自分が何をしたいのかずっと悩んできたが、五月の出産に立ち会い、生まれてきた赤ちゃんが夢を持てるような何かを作りたいと思ったと語る。
「デザインを頑張りたい。二度と泣き言は言いません。私もお母さんの仕事を応援します。そやから、私のことを応援してください」。そんなさくらの言葉に「もちろんよ」と微笑むすみれ。抱き合う2人をみながら、紀夫は涙をぬぐうのだった。
そして春になり桜が舞う季節。制服姿で元気に朝食を食べるさくら。おかわりをねだるさくらに「それやったら、もう5分、早起きしてください」と喜代がたしなめる。「さくら、行ってくるね」とすみれと紀夫。そんな一家を見守る声が聞こえてくる。「よかったな、すみれ」と五十八。「ほんまやね」とはな……。
第20週の『べっぴんさん』は、昭和37年6月。ある日、すみれと娘・さくらは、すみれの父・五十八に長年仕えてきた忠一郎と女中の喜代が、「二人で旅に出よう」と話しこむのを耳にする。二人の決断を尊重しようと決意するすみれと紀夫だったが、さらに自分の将来に悩んでいた龍一(森永悠希)も「世界中を旅したい」と言いだし……。一方、すみれ、明美、良子、君枝は、15歳の時から「キアリス」のために働き続けてくれているタケちゃん(中島広稀)に縁談相手をみつけようと奔走する……。