勝ったのに負けた。
この不条理な世の中では、往々にしてあることです。でもできることなら、努力や苦労や能力がきちんと評価される世の中であってほしい。お笑いコンビ「かまいたち」を見ていると、つい拳を握りしめてしまうのです。
かまいたちとは10月1日に開催された『キングオブコント2017』で優勝し、ネクストブレーク必至といわれている男性お笑いコンビ。さぞ祝福されていると思いきや、どうやら雲行きが怪しいようです。それは同大会に出場した「にゃんこスター」という男女コンビが結成わずか5カ月で知名度ゼロにもかかわらず、審査員の評価も見る人のインパクトも全部かっさらってしまったからです。
かまいたちは結成13年で、大阪ではレギュラー番組を持つ人気者。「コントもトークも歌ネタも面白い」と芸人仲間からいわれているのに、東京ではブレークできていない実力派です。しかし受賞から半月が経った現在も、にゃんこスターのテレビ出演数のほうが多いようす。すでに反響の差が出つつあります。
そんな今の彼らに、ぜひ起死回生のモデルとして手本にしてほしい人がいます。それは、芥川賞作家の羽田圭介さん(31)です。
15年、「スクラップ・アンド・ビルド」で第153回芥川賞を受賞。メディア露出を増やした羽田さんですが、この年の同時受賞者は「ピース」の又吉直樹さん(37)でした。芸人初の芥川賞受賞ということで、注目はすべて又吉さんのもとへ。しかしここからが羽田さんの凄いところ。彼なりのやり方で、視聴者を引きつけていきます。
芥川賞後、彼は一貫して「又吉じゃないほうの芥川賞作家です」と自己紹介し「すべては金のため作品ヒットのため」と断言。書影がプリントされたTシャツを着続けるなど、“すがすがしいまでの便乗商法”を宣言し続けてきました。
そして受賞から2年たった現在。又吉さんが長編新作を1冊発表したのに対して、羽田さんは2冊出版しています。タレント化したと思わせておいて、きっちり本業の成果を出しているのは流石の一言ではないでしょうか。
かまいたちの2人も、ぜひこの“羽田圭介作戦”を採用されてはいかがでしょうか?まずはコンビ名の書かれたTシャツを着て「ねこじゃなくてごめんなさい。僕たちイタチです! にゃー」なんて自己紹介したら面白い……かもしれません。
とはいえ、懸念点もあります。それは「大阪ですでに人気」という、ある種の安定感です。にゃんこスターはインパクトが凄かったし、優勝できなかったものの勢いを燃やし尽くすことでしょう。しかし、それらは知名度ゼロの捨て身だったことが要因です。
恋愛に置き換えてみると、何でもソツなくこなして人望もそこそこある“安定したいいヤツ”と、だめんずかもしれないけど“凄そうで刺激的そうなヤツ”の違いです。
恋愛を楽しむなら、短期的には後者に軍配があがりがちです。しかし長く売れるのはちゃんと実力のある前者であってほしいもの。彼らの直面する試練は日本でよく起きる、“不条理に満ちたつまずき”なのです。