先週に引き続き、息子の「卒業」の話をさせてください。小学校に入ったときには彼にはお母さんがいました。でも、卒業するとき、彼にはお父さんしかいませんでした。そのぶん、彼は心に欠けた何かを抱えています。
不意に離婚を持ちだされたのは去年の春。子供にとって、家族は必要だから、彼が頭で理解出来るようになるまで、少なくともあと、1~2年は待ってもらえないか、と何度も説得を試みましたが叶いませんでした。そして、7月初旬、渡された離婚届にサインをすることになります。短期間での離婚が息子に与えた精神的な衝撃は計り知れません。息子は人生でもっとも多感な時期に、父子家庭で生きることになってしまいました。
息子は夫婦の離婚までの道のりをすべて目撃してきましたので、彼なりの意見があります。それを宥めるというか分からせることが今の私の役目といえるでしょう。ママにはママの人生があったのだ、と……。
息子の中にあいた穴を埋められるか正直、去年の春は自信がなかった。でも。1年以上が過ぎ、理解者、応援者も増えて、今や私には「自信」、シングルファザーとしての「強い自覚」が芽生えています。その自信と自覚が息子を支えてもいます。
彼は今日、こう言いました。
「パパ、ぼくは今、毎日が楽しくてしょうがないんだよ。素晴らしい友達にも巡りあえたし、最後の日まで同じ学校に通い続けることが出来た。これはマジで、パパのおかげ。パパの中にお母さんがいるし、立派なお父さんがいる。パパ、本当にありがとう。いつか、ぼくが大人になったとき、この日を思い出すんだろうね。きっと今日と同じ気持ちで思い出すんだ。素晴らしいことじゃない? 今日のパパへの感謝、一生忘れないよ」
私は息子をぎゅっと抱きしめてやりました。この子は間違いなく私を見て育っています。父としては、自分の終わりなき創作の夢を追いかけながら、これからいっそうのシングルファザー道、精進を重ねる所存であります。
もう一度言わせてください。
十君、君は頑張った。卒業おめでとう。
今日は、息子の大好物、明太子を使ったクリーミーな一品、「明太子マカロニグラタン」を一緒に作りましょう。
材料(4人分):じゃがいも250g、玉ねぎ小1個、ブロッコリー1/2個、蒸しエビ12尾、牛乳、マカロニ60g、明太子2腹、グラタン用とろけるチーズ(パルメジャーノ粉チーズ)、バター10g、塩・こしょう、オリーブオイル、生クリーム。
レシピ:①じゃがいもを茹で、千切り玉ねぎと一緒にオリーブオイルで炒める。玉ねぎが色づいたら、牛乳100ml、生クリーム大さじ1、明太子1腹を崩して入れ、混ぜ合わせる。塩・こしょう適宜。②マカロニを硬めに茹でておく。グラタン皿に①を入れ、蒸しエビをのせ、上にマカロニを敷き詰める。その上にブロッコリーを置き、明太子の薄切り1腹分をちらし、最後にとろけるチーズをふりかけ、バターを乗せる。余熱で温まったオーブンに入れて約20分で完成。
明太子の辛さが刺激的なシンプルなグラタンの登場です。ご家族で幸せにつついて食べてください。
アレンジとして、イタリアのナポリで食べたナポリ風焼きマッケローニ「マカロニパイ」を。オーブン皿にオリーブオイルを塗り、生卵2個を同じ分量の①と②に混ぜて敷き詰め、200度のオーブンで30分前後、焦げ目が表面に付くまで焼きます。
お皿にひっくり返し、パイをカットし取り分けて夕方5時のおやつ代わりにお召し上がりください。
ボナペティ!
エッセイで紹介されたレシピは、
辻仁成 子連れロッカー「希望回復大作戦」ムスコ飯<レシピ>で公開中!
辻仁成/つじ ひとなり
作家。東京都生まれ。’89年「ピアニシモ」ですばる文学賞、’97年「海峡の光」で芥川賞、’99年「白仏」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を受賞。映画監督、演出家としても活躍。現在はシングルファザー、パリで息子と2人暮らし。
近著に『日付変更線』(集英社刊)がある。