フランスのみならず全世界的に寿司ブーム。ここパリでもそこら中にお寿司屋さんがあります。けれども、そのほとんどがアジア系の寿司屋さんでして、ビニール手袋をはめた板前さんが握っておられます。
家の近所にも1軒ございまして、顔見知りということもあり、またどうしても作るのが面倒くさい日とか酢飯が食べたいときとか、安いですからね、たまーに利用させて頂いております。でも、日本人的感覚からすると、とても寿司とは呼べないものもあります。これはしょうがないですね。日本で修業された人なんかほぼいないでしょうし、中華街あたりの店が取り仕切ってるんでしょう、やや形の悪い、どの店も同じメニューの寿司が並びます。フランスで活躍する日本人寿司職人は30人程度と言われています。パリの寿司屋は千軒ほどありますので、いかに本場で修業された職人が少ないか、わかります。
一度、おしんこ巻を頼んだら、若い女性給仕さんが「おちんこ巻!」と店内に響き渡る大声で叫びだし私を驚かせました。中華街からビニールに入ったおしんこがバイクで運ばれてきて、巻きになってぼんと出てきたときには、いい経験させてもらえたな、エッセイ1本書けるやん、と笑いが起きてしまったほどです。最近は、板前教育も徹底されており、そこそこ美味しくなりました(笑)。
しかし生魚を扱う料理ですからね、処理の仕方など日本人としてはちょっと不安も覚えます。もちろん日本人以外でもちゃんとした寿司職人は存在します。でも、パリで「ジャポ寿司」とか「ヤキトリ日本」とかいう名前のついた寿司屋さんに入る場合、注意と度胸が多少必要かもしれません。そうは言っても、長旅に疲れたら、和食が恋しくなり、飛び込んでしまいますよね(笑)。
さて、今日は子供が食べやすい我が家の定番「サーモンのお子ちゃま寿司」をご紹介いたしましょう。キッチンが小さな寿司屋に早変わり。お寿司屋さんごっこは暗くなりがちな小さな我が家を明るくしてくれます。「パパ、今日もお寿司屋さんになって!」とよくリクエストされますよ。小さなテーブルをキッチンの真ん中に置き、丸椅子には息子が座り、パパは頭に鉢巻をして握ります。楽しいですよ。卵焼きとか、かにかまとかをサイドディッシュで用意しておきます(笑)。
まず、ご飯1合分の寿司しゃりを作ります。材料:砂糖大1、塩小1弱、酢大1と2分の1。以上、すし酢の材料を混ぜ、一度煮たてるかレンジで温めてよく溶かし、粗熱をとっておく。炊き上がったご飯にすし酢をかけ、ご飯を切るように混ぜ合わせる。うちわなどで熱をよく飛ばす。ご飯が落ち着くまでの間にスモークサーモンを切る。日本で売られているスモークサーモンは薄いので、厚みが欲しいならば、2~3枚重ねて使う。次にキリチーズを用意し、醤油を垂らしよく混ぜる(大人はここにわさびを足す)。毎回握るたびに手を軽くぬらし、左手を丸めながら小さくしゃりをつかみ、人さし指と薬指の間で丸める。右手を使い裏返しながら形を整える。右手の人さし指でキリ醤油をつまみ丸めた酢飯の上にのっける。そこに切ったサーモンを置いて最後に右手の人さし指と中指で軽く押さえて完成。
もし、手で握るのがちょっと面倒ならば、大きめの製氷型を利用する。酢飯を型に詰め、裏返し、まな板の上でポンポンすると、寿司のような形になって出てくる。それを前出の手順で整え直す。より簡単にお寿司が握れます。
こちらに写真を載せました。参考にしてください。酢飯、スモークサーモン、キリチーズにお醤油、これ最高のコンビネーションなんです。お母さんが寿司職人に早変わり、お子さんたちびっくりしますよ。
ボナペティ!
エッセイで紹介されたレシピは、
辻仁成 子連れロッカー「希望回復大作戦」ムスコ飯<レシピ>で公開中!
辻仁成/つじ ひとなり
作家。東京都生まれ。’89年「ピアニシモ」ですばる文学賞、’97年「海峡の光」で芥川賞、’99年「白仏」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を受賞。映画監督、演出家としても活躍。現在はシングルファザー、パリで息子と2人暮らし。『息子に贈ることば』(文藝春秋)発売中です。