健康的な食事が注目されるようになった昨今。
「オーガニック」や「有機」という表記を見る機会は増えたが、その中にもいくつか種類があるらしい。
最近実践する農家が増えつつある「バイオダイナミック農法」について学ぶ機会があった。
(photo by Ken Takewaki)
人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ……!
キッチンスタジオも併せ持つ都内の連合設計市谷建築事務所でその日、バイオダイナミック農法の農家たちの集まりが行われていた。
バイオダイナミック農法は、ドイツの教育者ルドルフ・シュタイナーが提唱した1924年から実践される一番古い有機農法だ。
農薬や化学肥料は使わない。
地球に生きるものは太陽や月の満ち欠け、惑星などに関連があるという考えから、宇宙のリズムに基づいた「種まきカレンダー」を使って種まきや間引きなどを行う。
牛糞や水晶、花や樹皮を使った「調剤」を使うのも特徴。
(photo by Ken Takewaki)
然るべき時に散布してもともと住んでいる微生物を活発化させることで、健康的な大地を作る。
北は北海道、南は熊本まで。バイオダイナミックを実践する農家たちが東京へ集った。
それぞれ自分のところで作った野菜や育てた牛のお肉、バターやチーズなどを持ち寄って試食会。
シンプルな味付けのお料理が出揃った。
少し苦みもあるシッカリした味わいの葉物野菜とニンジンドレッシングのバランスが絶妙なサラダ、
じゃがいもだけのマッシュポテト、
塩や自家製味噌をつけて食べると至福のホクホクな蒸かした里芋、
茹でたブロッコリー、
炒めただけのネギ、
全てが「野菜ってこんなに味が濃いのか……!」と感動を覚えるほど。
甘みが強い。こんなじゃがいも、延々と食べていたい。
歯ごたえも感じられて、植物の力強さを感じる。
石釜と薪で焼かれた小麦の味が活きたパンも、
牧草を食べて育った牛のミルクを使って作られたチーズやミルクジャムにヨーグルトも、
全ての食材が個性を主張しているみたいだ。
農家の方々が挨拶をするシーンもあった。
「2週間後に牛の初産がある」というソフィア・ファームでは、乳製品の加工もお肉の加工も全て手作業で行われる。
乳しぼりも機械が主流の今では珍しい手作業。
バイオダイナミック農法の農家を増やすため、研修生を受け入れている。
サイズや育てている植物は様々ながら、10軒ほどの農家が集っていた。
バイオダイナミックには欠かせない抗生物質を使わない自然治療を行う獣医も。
わたしがパンを食べていると「おいしい?」と尋ねてきた男性がいた。
「おいしいです!」と答えると「褒められてよかった、安心した」と言う。
彼はパンの生産者だったのだ。
都会で生きるわたしにとって、なかなか生産者に直接感謝や感想を伝える機会はない。
おいしいと言えること、おいしいと言って喜んでもらえることはこんなにうれしいことなのか、と思った。
農家の皆さんが生産物に対して向き合った結果がここにある。
そこにいた農家は流通に乗せず、自分たちのやっている農業を理解してくれるお客さんに売っているんだそうだ。
見た目は関係ない。天候や季節でいい時期悪い時期があるのは当たり前。
虫がついていることもあるかもしれない。でも、長期的に生産者と消費者が付き合っていくことで相殺することができる。
自分の知らない場所で、消費されている美味しい野菜がある、流通に乗らないものがある。
自分の身体や精神を作る食べ物の生産者のことを知らずに生きていくのは、寂しいことかもしれない。
自分が食べるものがどんな育て方をされているのか、その中で自分は何を選ぶのか。
一度立ち止まって考えてみてはいかがだろうか。
バイオダイナミック農法を実践する
『ソフィア・ファーム・コミュニティ』
北海道中川郡本別町西美里別707-1