牧場、温泉、摩周湖を堪能「北根室ランチウェイ」71kmを歩く!
今年から8月11日が「山の日」に制定されました。山歩き人口は全国で1000万人ともいわれ、老若男女問わず親しまれています。全国各地の山歩きをしていると、女性自身の愛読者の方々にもよく出会います。それだけポピュラーな趣味、健康法になっているのです。
さて、今回は山歩きの新しい潮流、「ロングトレイル」に挑みます。ピーク(山頂)を目指す登山と違い、ロングトレイルは登山道、ハイキング道、林道、古道などを繋ぎ会わせた自然豊かな長距離のトレイルをゆったりと歩き、地域の自然や文化、食材などに触れあうスタイルのアクティビティ。欧米では古くから盛んで、アメリカの全長3,500kmにも及ぶアパラチアン・トレイルが有名です。日本でも近年、コース整備が進み、北海道から九州まで各地に魅力的なトレイルがあります。
「空飛ぶB級山歩き」で紹介するのは、北海道の「北根室ランチウェイ」(KIRAWAY)=全長71.4km。ランチはRanch=大牧場のこと。文字どおり牛が放牧されている広大な緑の牧場の中や脇を通り抜け、摩周湖を望む丘に登ったり、温泉で疲れを癒したりと、北海道のスケールを足で確かめ、体感する旅です。
行程はStage1からStage6まで。1日に2Stage、20数kmを歩きます(スルーハイク)。登山のような急なアップダウンが少ないため、5、6時間かけてのんびりと。いろんな出会いを通じて、都会生活や子育てに疲れた人々のリフレッシュ、あるいはセカンドライフの夢を見つける旅になるかもしれません。もちろん、すべてを歩き通す必要はなく、お気に入りのコースだけをチョイスする歩き方もアリです。
連載の1回目はKIRAWAYコース全体の紹介と歩き方、歴史と文化を中心にお届けします。2回目以降では実際の完歩ルポを。どうぞお楽しみください。
「KIRAWAY」は全部で6ステージ
■第1ステージ:中標津町交通センターから開陽台(14.7km)
市街地からスタート。町立緑ヶ丘森林公園、道立ゆめの森公園内の散策路を歩いて中標津空港に立ち寄る。その後、桜井牧場、カラマツの格子状防風林の中を歩き、最後はまっすぐの砂利道を開陽台へ。
■第2ステージ:開陽台からレストラン牧舎・佐伯農場(9.9km)
地球がまるく見える展望台のある開陽台から酪農地帯や林間を歩くコース。牧草地と牧場を隔てるマンパスという柵のデザインが楽しい。佐伯農場にはレストランの他、牛舎を改装した宿泊施設もある。
■第3ステージ:レストラン牧舎から養老牛温泉(8.9km)
牧草地内を歩き、サイロのある光景を楽しむ。馬の姿も。川の近くには熊除けの鈴(シンバル)が。思いきり叩いてこちらの存在を知らせよう。
■第4ステージ:養老牛温泉から西別岳山小屋(17.4km)
養老牛温泉は「男はつらいよ」や「釣りバカ日誌」のロケ地になった。その記念碑が残っている。ひと山越えると無料の露天温泉「からまつの湯」がある。一汗流したい。緑の小山モアン山を眺めながら牧草地を進み、最後は長い林道歩きで山小屋へ。
■第5ステージ:西別岳山小屋から摩周湖第一展望台(11.3km)
ログハウスの山小屋で一泊し、西別岳山頂を目指す。がまん坂がキツいが、美しい高山植物に癒される。山頂からは白樺林の中を進む緩やかな道。摩周岳分岐を過ぎると摩周湖の姿を望むことができる。
■第6ステージ:摩周湖第一展望台からJR美留和駅(6.2km)
展望台から下る道の入り口がちょっと分かりにくい。山道を下り、最後は林道をひたすら歩く。広大な農場を見ながら進む。車道に出たら駅は近い。かつて美留和小学校が摩周湖ハイクに使っていた道。
すべての行程を歩くスルーハイクの場合は、2泊3日で、初日に第1、第2ステージ、2日目は第3、第4ステージ、そして3日目に第5、第6ステージを歩くのが一般的だ。1泊2日で手軽に歩きたい人には開陽台からスタートする第2ステージ、第3ステージの酪農地帯を堪能するコースがオススメ。養老牛温泉に泊まれば温泉もゆっくりと楽しめる。また、ガイド同行サービス(有料)もある。詳しいコースガイド、宿泊情報は北根室ランチウェイ事務局へ問い合わせたい。Tel:0153-73-7107(佐伯さん)
中標津空港の観光案内所に「北根室ランチウェイの歩き方」のガイドパンフとマップが置いてある。
’05年から整備が始まり’11年に完成した北根室ランチウェイ
中標津町交通センターから弟子屈町のJR釧網線美留和駅に至る全長71.4kmのコースは、北根室ランチウェイ代表で酪農家の佐伯雅視さん(65)が’05年に酪農仲間の長正路清さん(65)ら有志7人で整備を始め、’11年に全コースが開通した。牧場、格子状防風林、沢、丘陵地帯、山、湖、農園と道東の大自然の中を一本のトレイルが続いていく。
なぜ、この地にロングトレイルのコースを整備したのか。佐伯さんに整備に取り掛かったころ(’05年)の思いを語っていただいた。
「(ロングトレイルが盛んな)イギリスでは歩く権利が保証されていて、道があるところはどこでも歩いていいという文化があります。実際にイギリス(イングランドとスコットランド)のコースを歩いてその文化に触れ、素晴らしさに感動しました。今後、日本でも歩く旅を楽しむ人が絶対に増えると確信し、仲間と道の整備を始めたのです。大量消費社会の中で、人々は疲れ、ストレスを溜め込んでいます。酪農地帯を歩いて移動し、地域の文化に触れることで、いろんなことを考え、生活スタイルを見直すきっかけにもなる。そうした歩く旅が絶対に必要になる時代が来ると思ったのです」
コース整備にあたっては牧場をはじめとする地権者との交渉、草刈り、標識作り、ガイドマップ作りなどを粘り強く続け、’11年、舗装路ではなく土の道がつながったのである。
サイロを改造した美術館や宿泊施設で地域の文化に触れる
KIRAWAYの特徴は、歩くことだけが目的ではないこと。トレイルを楽しむことで酪農地帯から神秘的な摩周湖まで道東ならではの自然を堪能する一方、もうひとつ大きな楽しみがある。コースをめぐる途中で酪農地帯特有の文化に触れることができるのだ。
その一つが、佐伯さんが農場主を務める佐伯農場(現在の経営者は息子さん)。農場内には遊休サイロを活用した「荒川版画美術館」や現代美術彫刻家の作品などを展示する「ギャラリー倉庫」、酪農関係の書籍、資料などを陳列する「帰農館」といった文化施設があり、全国各地から観覧者が訪れている。芝生の広場には、年に数ヵ月農場に滞在して作品を制作している彫刻家・宮島義清さんの作品が農場の光景に溶け合うように置かれている。
美術館には地元の版画家・細見浩さんのサイロをモチーフにした作品や女性版画家・冨田美穂さんの牛の表情をリアルに表現した木版画がなどが展示されている。
「自然だけではなく、地元に根ざした文化も含めて道東、中標津の良さをトータルに分かってもらいたいですね」と語る佐伯さんの今後の構想は、女満別、釧路、中標津の3空港を結ぶ道を作ること。
「飛行機で来て、大地を歩き回ることで道東のよさを体感してほしい。特に若い人たちにどんどん来てもらいたい。そうすれば必ず次に繋がりますからね。中央志向ではなく、地方の魅力をつくり、発信することが活性化に繋がっていくと思いますよ」(佐伯さん)
地元の人々の熱い思いでつくられたKIRAWAY。その素晴らしさは、歩いた人にしかわからない。
ANA 根室中標津空港 道産子スタッフの中標津自慢
道東ならではの素晴らしい大自然を堪能してください
根室中標津空港ビル株式会社 空港営業所
和田 さやかさん(左)
森崎 沙也香さん(中央)
三ツ木 麻有さん(右)
今回ご登場いただいたのは、中標津町と隣の別海町生まれの道産子の3人。地元育ちならではのとっておきの情報を教えていただいた。まずはオススメの山から。
「眺望のよさで人気なのが武佐岳(むさだけ)ですね。中標津と標津にまたがる山で標高は1005mで、登山口から2時間半ほどで登ることができます。山頂からは国後島や知床連山が一望できます。西別岳(にしべつたけ・800m)もステキな山です。途中にきつい坂がありますが、それをクリアすれば素晴らしいお花畑があり、癒されます。小学生でも登れる山です。山頂から見る酪農地帯の広々とした光景、そして摩周湖の美しい湖面が最高ですね」
季節限定で楽しめるのが「見返りキツネ」と呼ばれている珍しい雪形。
「5月下旬から6月下旬にかけて遠音別岳の山肌にあらわれます。最初のうちは太ったキツネなのですが、だんだんと雪が溶けて痩せていくのがおもしろいですね」
摩周湖の伏流水がつくりだす神の子池の幻想的な造形美
「空港から車で1時間半ほど走った清里町に神の子池という小さな池があります。道道1115線から林道を進むと駐車場があります。摩周湖(神の湖)の伏流水からできていると言われ、神秘的なコバルトブルーの水の中に倒木が化石のように沈み、オショロコマが泳いでいます。本当に幻想的な雰囲気で、道東のパワースポットとしても知られています」
武佐岳の近くにあるクテクンの滝もぜひ訪れてみたスポットだ。
「武佐岳登山口からさらに林道を進み、行き止まりのスペースに車を止めて歩いて1時間ほどかかります。落差は25メートルで、滝壺がないので水が落ちる様子がものすごい迫力です」
中標津空港からは知床も近い。羅臼まで車で1時間半ほど。
「羅臼に行かれたらホエールウォッチングがオススメです。マッコウクジラやシャチの姿を間近に観察することができます」
自然の宝庫・道東。楽しみ方はいくらでもある。