「彼らに共通しているのは、“普通の家庭から生まれた犯罪者たち”という点でしょう」
そう話すのは、社会心理学を専門とする、新潟青陵大学大学院の碓井真史教授。“彼ら”とは「遠隔操作ウィルス事件」の容疑者として逮捕された片山祐輔をはじめ、97年の「神戸連続児童殺傷事件」の酒鬼薔薇聖斗、00年の「西鉄バスジャック事件」、08年「秋葉原通り魔事件」の加藤智大容疑者などのこと。皆もれなく現在30歳の82年生まれだ。
82年とは、あみんの『待つわ』が大ヒットし、ホテルニュージャパンの火災が世間をにぎわし『積木くずし』がベストセラーになった年だ。平成初の小学生となった82年世代は、“失われた10年”と言われる時代を小・中・高校生として過ごした。中学時代には「いじめ」が、高校時代には「キレる17歳の犯罪」、大学を卒業する頃には「ニート」、今は「ワーキングプア」が社会問題となった。
「かつては『いい大学を出て、いい会社に就職しなくてはいけない』というのは比較的上流な階層だけの悩みだった。今は豊かで合理的な時代だからこそ『当然ウチの子も仕事はホワイトカラーがいい』という風潮が生まれた。秋葉原の通り魔事件の犯人も、国立大に行けず、正社員にもなれなかった。だから『自分はダメなんだ』と思い込んだ。彼にはそうした基準がスタンダードだったんです」(碓井教授)
さらに80年代世代は『君たちには無限の可能性がある』と個性尊重が叫ばれた世代。
「周りには、実際に可能性を活かして成功した人もたくさんいる。だから、実は自分がそうじゃないと気づいたとき、非常に苦しくなるんです。さらに彼らに共通しているのが、学校の成績が比較的優秀だった点。自負があるからこそ自分に見切りをつけられず、『こんなはずじゃなかった』となってしまう」
しかし彼ら自身の理想が高過ぎたわけではないという。
「彼らは理想を持っていないんです。社会常識としての理想であって、自分自身の理想がない。だから、そこから外れると『人生お終いだ』と思ってしまう。そして自分を『ダメだ』と責め続け、一転して、そんな自分が認められない『世の中が悪い!』という考えになってしまうんです」
碓井教授はそう精神分析する。これが「暴発の深層」なのだろうか。