「バレなければいいと……。施設からは(窃盗について)聞かれたこともなかったので、自分は疑われていないと思っていました……」
検察から窃盗を繰り返していた理由を聞かれ、そう答えたのはA被告(23)だった。
9月10日、横浜地裁川崎支部で、老人ホーム『Sアミーユ川崎幸町』で発生した窃盗事件の公判が行われた。元介護職員のA被告は短髪で、黒メガネをかけており、身長180センチのがっしりした体型が印象的だった。
「公判は3件を対象にしたものでしたが、余罪も含めると犯行は19件、被害額は200万円にものぼるそうです」(社会部記者)
昨年5月に介護職員になったA被告は、その立場を利用して、本来は守るべき対象の老人たちから、現金や指輪などを盗み続けていたのだ。
「手口は非常に単純です。まず管理室からマスターキーを持ち出し、入居者が部屋を空けた際に、侵入して盗んでいたのです。事件が発覚しそうになると、『こんなところに落ちていましたよ』など、さも自分が紛失物を発見したようにふるまっていたこともあったそうです」(前出・社会部記者)
結局、今年5月に神奈川県警に逮捕され、やっと懲戒解雇されたのだが、そのあまりの悪質ぶりに裁判長が問い詰める場面もあった。
「『お金を盗まれたみたい』と被害を訴える人たちを、あなたはどんな気持ちで介護していたのですか?」
「目の前の入居者たちがお金を持っていると思うと、盗みたくなったのです。同僚にお金を持っているところを見せたい、見栄を張りたいとも思っていました……」
あまりにも身勝手な言い分に、傍聴席からもため息が漏れたというが、席を占めていたのは新聞記者やテレビ局のリポーターたちだった。
『Sアミーユ川崎幸町』では昨年11月から12月にかけて、3人の高齢者たちが次々と深夜に転落死を遂げている。
A被告は転落事故があったすべての日に夜勤に就いており、マスコミの注目を集めていたのだ。盗んだ金品は、彼の母親が親戚から借金をして弁済したという。
公判終了後、母親と一緒に法廷を出てきたA被告に、記者たちが転落死事件について質問したが、彼は「歩けないですよ。ちょっと避けてくれますか」と無表情に語るだけだった。