通常よりも大きく輝く満月“スーパームーン”が照らしていたのは、古い記念碑のそばに横たわる少女のなきがらと、放心する少年だった――。
9月28日、三重県松阪市に住む高校3年生・波田泉有さん(18)が刺殺された。
「波田さんの左胸には刺し傷がありましたが、抵抗した様子もありませんでした。逮捕されたのは同級生の男子生徒A(18)で、『波田さんから何度も“私を殺してほしい”と頼まれていた』『あおむけになった波田さんを(包丁で)上から刺した』などと供述しています」(社会部記者)
惨劇の現場となったのは伊勢市・虎尾山の記念碑付近。10年ほど前に出版されアニメ化もされたライトノベル『半分の月がのぼる空』でこの記念碑は物語上の重要な役割を果たしており、ファンたちの間では『恋愛の聖地』とされていたという。波田さんは今年7月1日夜、Aとは別の男子同級生と家出している。
「(波田さんは)『18歳の誕生日を迎えたら自殺したい』とか友達に話していました」(波田さんと同じ高校に通う女子生徒)
彼女が家出した翌日の7月2日は、18歳の誕生日だった。
「“波田さんは自殺する気で家出したのではないか”と大騒ぎになったのです」(前出・社会部記者)
保護された後、担任教師に「自分は生きている価値がないから……」とも語っていたという。立教大学教授で精神科医の香山リカさんは言う。
「彼女は“18歳で死にたい”と話していたそうですが、その根底には“汚い大人にはなりたくない”という感情があったと思います。そんな少女たちにとって、その汚い大人の象徴は母親であることも多く、母親に対して嫌悪感を持つこともあります」
波田さんは母親と2人暮らしだったという。彼女が通っていた高校の職員は言う。
「7月の失踪事件の後、波田さんは反省文を書きましたが、その中には母への不満も書かれており『この作文は母に見せないでほしい』という但し書きもあったそうです」
波田さんは男子生徒Aのことを“親友”と呼んでいた。
「Aくんの家もシングルマザーで同じ境遇だったし、何でも相談できたのでしょうか。波田さんとAくんは好きなアニメの話で盛り上がっていました」(前出・女子生徒)
年ごろの少女なら一度や二度、思い浮かべることはあるかもしれない自殺。それが、同級生が手にかけるという最悪な形で実現してしまったのだ。香山さんは続ける。
「“きれいなまま死にたい”という願いは、あくまでもファンタジーですが、女の子同士で共感しあうことによって、希に心中事件に発展してしまうこともあります。波田さんが繰り返し語る自殺への思いに、容疑者の少年が共感を示したことによって、死のファンタジーがより強くなっていったのではないでしょうか。『スーパームーンの夜に、あの聖地で、私を理解してくれるソウルメイトの手で命を絶たれる』なんてストーリーが次第にできあがっていったのかもしれません」
波田さんとA少年との絆が悲劇を生んでしまったのであれば、運命の皮肉としかいいようがない――。