4~5月にかけて、安倍総理は、憲法96条の改正に向けて強い決意を示していた。参議院予算委員会の場でも、今回の参議院選挙の公約に、「堂々と掲げて戦うべきだと考えている」と答弁。ところが、6月に発表された自民党の選挙公約のなかには『憲法96条改正』の文字はなかった。
「争点隠しですよ。各種世論調査で、国民は憲法96条の改正に消極的だとわかり、とりあえず引っ込めた感じですね。あれだけ参議院選挙の争点にすると大見えを切って発言していたにもかかわらず……非常に問題だと思いますね」
そう話すのは、ジャーナリストの江川紹子さん。96条というのは、憲法改正のルールを定めた条文である。現在は、衆・参両議院で、それぞれの総議員の3分の2以上の賛成で発議し、それから国民投票。そこで有効投票の過半数の賛成があれば、憲法の改正ができる。安倍自民党は、この条文のままではハードルが高すぎるので、国会議員の“3分2”を“過半数”に緩和しようとしている。
「大事なのは、安倍さんたちが96条を変えたあとに、憲法をどのようにしようとしているか、という点だと思います。昨年、自民党が発表した『日本国憲法改正草案』は、私たちの価値観を革命的に変容させることを迫っている、そういう内容です。96条の改正の先に何があるか。そのことをしっかりと考えておく必要がありますね」(江川さん・以下同)
自民党草案を読むと、まるで明治憲法のようである。国民に憲法を尊重する義務を負わせる。あるいは、国民の権利を非常に制限する内容などが盛り込まれている。公益に反すれば、言論や表現の自由すら規制される危険性も……。そもそも、いまいる国会議員たちが、憲法改正議論をすること自体、「おこがましいにもほどがある」と江川さんは怒っている。
「衆・参両議員の国会議員たちは、違憲な選挙で選ばれた人たちなんです。そういう違憲議員たちが、憲法を変えるなんて本末転倒。とんでもない話です。憲法改正を議論するのであれば、その前に人口比例選挙を実施すべきです。国民一人一人の一票の重みがちゃんと等しくなるような選挙をやって、初めて正当性を持つ。いまの国会は、正当性を持たない国会であることを、もう少し自覚してもらいたいですね」