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富山市議の報酬を月に10万円もアップしようとして、市民から大批判を受けている政策を進めた議会与党・自民会派の“会長”でもある富山市議会議員の中川勇氏(68)。中川氏は去る6月9日、「取材中の北日本新聞の女性記者を押し倒し、取材メモを奪い取った」として、同社から“暴行と窃盗”の疑いで被害届を出されている。

 

本誌が中川氏と北日本新聞の記者を取材すると、驚くほど両者の主張が食い違う。中川氏の説明によると、女性記者が自民会派の会長である議員本人に断りなく控え室で同会派の議員にアンケートをとっているのを発見。「会長の私に許可も得ず何をしてるんだ?どんな内容なのか見せなさい」と女性記者が手にしていたアンケート用紙を引っ張ったという。

 

「押し問答になって女性記者はバランスを崩し尻もちをついた。報道のように押さえ込んで用紙を取り上げたりなんてしていませんし、アンケートの中身も見ていません」(中川氏)

 

この中川氏の話に驚きを隠せないのは、当日現場に居合わせた同僚の女性記者だ。

 

「信じられない!まったく違いますよ。会長は『(アンケートに)答えるな!』と大声で怒鳴りながら、しゃがんで取材していた女性記者の手をつかんで力ずくでアンケートを奪ったんです。(自分で)バランスを崩して尻もちをついたなんてウソですよ」

 

北日本新聞社の報道本部長・本田光信さんもこう語る。

 

「9日、うちの記者たちは、富山市議会議員の報酬を10万円アップする条例改正について、賛成か反対か議員にアンケートを実施していたんです。私が記者に聞き取りをしたところ、中川氏の証言は、事実とかなり異なります」

 

先述のように富山市では、先月から市議会議員の報酬を現行の60万円から10万円アップするという条例改正案が審議されていた。今月15日に開かれた本会議では、賛成34(自民・公明・民政クラブ)、反対3(共産・社民)という圧倒的多数で可決。しかし審議会での審議時間はわずか3時間。それも非公開で行われたとあって、市民からは苦情が殺到。16日までで市役所には「非常識だ!」といった怒りの声が352件も寄せられた。

 

取材に中川氏がピリピリしていたのは、議員報酬10万円アップに市民から予想以上の批判があったからだろう。取材に先立ち15日午前に行われた本会議では、傍聴席86席がほぼ満員。傍聴していた市民からも「議員はちゃんと仕事をしなさい!」などヤジが相次いだ。本会議後、中川氏に「市民の理解を得られるまで議論すべきだったのでは?」と尋ねると「苦情を寄せているのは、ほとんどが市民団体の人。説明したって彼らは聞く耳を持ちません」と対話を放棄。さらに10万円アップの根拠について尋ねると、こんな答えが。

 

「10万円上げても、税金や保険料などを差し引いたら、手取りは月30万円程度。我々は年金もないうえに、選挙に落ちたら誰も生活を保障してくれない。若い人が会社勤めを辞めてまで議員になるには、これくらい必要なんです」

 

これに対して本会議を傍聴に来ていた市民からは、次のような批判が。

 

「税金引かれても年収1千万円以上。それで気に入らないなら辞めればいい」(40代女性)

「女性に暴力的なふるまいをする人間が、良い政治なんてできるわけない」(50代女性)

「赤字財政なのに、豪華な美術館を建てたり、1台約10万円もするレンタル自転車を購入したり、運営にこれまで2億6千万円もかけている。ムダ使いを正すべき」(60代女性)

 

また初めて傍聴したという30代の女性は、報酬アップの改正案とともに可決された「保育園等での職員配置要件の弾力化」の条例(保育施設で朝夕の児童が少ない時間帯において保育士の最低配置要件2人のうち1人は無資格者でもよいとする)についてこう語った。

 

「私にも保育園に通う子どもがいますが、無資格者を雇って、子どもに何かあったとき、賛成した議員は責任をとってくれるのか。自分たちの報酬をアップする前に保育士の給料を上げて、いい人材が集まるようにしてほしい」

 

一連の騒動に対し、地方行政論が専門の荒木田岳氏(福島大学准教授)は、こう語る。

 

「反対意見に耳をかさず、数にモノを言わせて押し通すやり方は、昨年の安保法制のときと同じ。地方議会でも、市民は“議員のための議会”にしないよう監視し続けることが大事ではないでしょうか」

 

北日本新聞に寄せられた読者の声の中には「富山の市議会議員は市民の代表として議会に送り込まれていることを忘れている」との意見があった。議員は誰のために存在するのか。参院選を前に、私たちも考え直すときが来ている。

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