「カープでの優勝は主人だけでなく私たち家族の夢でもありました。それが叶うことは本当に嬉しいです」
広島カープ25年ぶり優勝の喜びをこう語るのは、緒方孝市監督(47)の妻・かな子さん(43)。91年に中條かな子として芸能界デビューし、グラドルとして“学園祭の女王”と称される人気ぶりだったかな子さん。96年に結婚し3児の母となった彼女は、現在も地元・広島を中心にタレント活動を続けている。タレント業に、子育てママ、監督夫人という3足のわらじ。多忙な生活について改めて聞くと、彼女は照れ笑いを浮かべてこう答えた。
「私は、どんな監督夫人よりも大したことをしていないと思います(笑)。だってできないことがあればまわりを頼ることにしていますから。子どもたちは上から長女が大学生、次女が高校生、長男は小学生。私が仕事で忙しいとき、食事は料理の得意な次女が手伝ってくれました。長女には長男の幼稚園送迎をやってもらったりもしていました。だから監督の奥さんとしてちゃんとできているか、自信はないんです(笑)」
そんなかな子さんに、普段は無口な夫が相談してきたことがあった。それは、17年前。広島カープから移籍できるFA権を獲得した夫に、他球団から移籍のオファーがきたのだ。まだ現役選手で打率は2年連続3割越え。本塁打は自己最多の36本と大活躍した年だった。
「このころ、主人はいちばん悩んでいました。他の球団から給料面でも破格の待遇を提示がありました。優勝にこだわっていたこともあり、優勝を狙える可能性の高いチームへ移ったほうがいいのではないかと揺れたようです。でも最後には『俺は他の球団ではなく、カープで優勝したいんだ。ずっと一緒に練習してきた仲間、支えてくれた裏方さん、応援してくれたファン。そのみんなと一緒に優勝したい』と言って、残留を決めたんです」
以来、カープでの優勝は家族の悲願に。09年オフに現役を引退。選手として優勝の夢はかなわなかっかたが、その後も球団に球団コーチとして残り、カープでの優勝を目指し続けた。そして昨シーズンに監督へ就任。だが1年目の昨季は4位に終わってしまう。ファンを裏切ったかたちになり、緒方監督は批判の矢面に立たされた。
「主人にとって、つらい年だったと思います。さきほど言ったように家で野球の話をしない人なのですが、悩んでいるのはわかりました。他の人から見れば分からないかもしれない。でも、私には痛いほどわかりました。だから新聞などで批判の記事が出ると、娘たちも心配して、『パパ、こんなこと書かれて可哀そう。落ち込んでいるかもしれないから、手紙でも書いてあげないとね』と話すようになっていました。それで折に触れて、私と娘2人のうち誰かが手紙を書くようになったんです」
パパが元気になりますように――。娘たちの “激励手紙”は、机の上にそっと置かれていた。返事はいつもなかったが、朝起きると必ず手紙は消えていたという。