『撮影/松蔭浩之』
全国の高校球児が目指す甲子園。出場できずに涙をのむ球児の中には、抜群の運動神経を誇るコも。そんな彼らを救うべく、金メダリストが動き出した!
「早稲田実業高校(東京)の清宮幸太郎くんのように恵まれた体格の部員たちが、試合に出られず甲子園のスタンドから声援を送っている姿を見て、『もったいない』と思っていたんです。『競技人口の少ないほかの種目に転向すれば、2020年の東京オリンピックを目指せる』と」
こう話すのは、’88年ソウルオリンピック競泳100m背泳ぎ金メダリストでスポーツ庁長官の鈴木大地さん(50)。スポーツ庁とは、’20年東京オリ・パラで過去最高の成績をオールジャパンで収めるため、他競技選手間のつながりがあまりなかった日本スポーツ界の構造解消・一元化を目的として’15年に創設された行政機関だ。
その初代長官である鈴木さんが発表した競技力強化のプランの1つが「高校球児の他競技での五輪挑戦」なのだ。そこで今回、鈴木さんに“鈴木プラン”の実現の可能性について話を聞いた。
「野球は花形スポーツで、トッププロともなれば数億円の年棒です。当然、競技人口は多く、甲子園を目指す高校球児が17万人ほどいるのに、試合で活躍できるのはうち7万人ほど。体力や運動神経に優れていても、それを生かすことなく、10万人もの若者が競技を引退してしまうのが現状。彼らを他競技に転向させてトップアスリートに育てる、そして他競技に転向しやすい環境をつくるというのが、私のプランです」
「他人とは違う土俵で戦う、という発想もある」鈴木さんは自分の経験をもとに、自信ありげに説明する。
「私が選手だったとき、ほかの人には思いつかない自分だけの“2つのひらめき”が、金メダル獲得を助けてくれました。それは、バサロ(スタート後の潜水)泳法を通常の25mから5m延長すること、ゴール前のタッチで腕を上げて弧を描くのをやめ、一直線にゴールタッチすることの2つ。これをやろうと決めたのは決勝の直前でした。『他人がしない戦法を見つけること』と似た発想が『競技人口の少ない種目への転向』なんです」
いまは最後の夏の甲子園を目指して猛練習に励む清宮くんだが、来年に大学進学という進路を選ぶと、「オールプロ」でチームを編成する流れのある侍ジャパン(野球日本代表)入りはできない可能性が高い。
「清宮くんには、野球だけでなくラグビーでも東京オリンピックを目指してほしい。彼のような選手が成功すれば、スポーツ界の行政改革に弾みがつきますよ」
もちろん「野球選手以外にも転向の道はある」と鈴木さん。水泳、サッカーのリトルクラブ……オリンピック出場の夢は、いまスポーツを頑張っているあらゆる子どもたちがかなえる可能性を秘めている。
「まだ子どもが小さい人は、親が思う“スポーツを始める適齢期”から2歳ほど前倒しして習わせ始めるといい。『小学生から』と思うなら5歳から。『5歳から』と思ったら、3歳からと、早め早めに挑戦させるといいと思います」
高校球児を支えるママたちが、「オリンピック選手の母」になる日も遠くない!?