4月のある日、福島県相馬市の大野台仮設住宅を、8頭のセラピードックが訪れた。犬たちがかわいい顔をのぞかせると、高齢者サポートセンターに集まった人たちから歓声が上がった。

 

「ずっと猫と暮らしてたけんど、ここ(仮設住宅)は動物を飼えねぇから……。だっこしたときの温けぇ体に、励まされてるみてぇだよ。このコも私らと同じ思いをしてきたかと思うと……」。そう言って、涙を流すおばあさんもいた。

 

なかでも、注目を集めた犬は、現在“実習生”である「日の丸」(♂)と「きずな」(♀・ともに推定3歳)の2頭。日の丸ときずなは、東日本大震災の被災犬だ。家族の消息がわからず、殺処分が検討されていたところを、国際セラピードッグ協会が引き取ったのだ。

 

セラピードッグとは、患者の心や体のケアをする「動物介在療法」を担う犬のこと。施設や病院を訪れ、病人の沈んだ心を癒したり、リハビリへと気持ちを向かわせたりする。「目を合わせる」「障がいのある人の速度に合わせて歩く」「寝たきりの人のベッドで添い寝」など、約2年半の訓練で身に付ける「マナー」は全45項目。現在、同協会公認のセラピードッグは31頭で、その全てが保護犬だった。

 

12年前、同協会を立ち上げたブルースシンガーの大木トオルさん(62)は、米国で暮らしていたときにセラピードッグの存在を知った。これまでに50頭以上のセラピードッグを育ててきたが、震災後は17頭の被災犬を引き取り、うち高齢犬や病気の犬を除いた12頭を訓練中だ。今回、引き取ったときの目標であった「里帰り」を果たすことができた。

 

「このコたちは、あの震災で恐ろしい体験をしたうえ、家族と離れる悲しみも知っている。だからこそ、被災者の方々の心に寄り添うことができるのでしょう。現在も、福島県には48頭の被災犬が保護されていて、処分の可能性もある。できれば彼らのことも引き取って、セラピードッグとして再生させたいと願っています」(大木さん)

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