加齢による“卵子老化”が知られるようになり、働く女性の間で注目される新しい選択肢「卵子凍結」ーー将来の妊娠に備えて、卵子を凍結保存するというものだ。
ただリスクはゼロではない。成城松村クリニックの松村圭子院長は「卵子を保存したところで、産む年齢が高ければ、高齢出産による危険性は変わらない」と警鐘を鳴らす。
「赤ちゃんの命綱である母体の加齢を免れることはできません。妊娠高血圧症候群、糖尿病などの生活習慣病も加齢とともに増加します。凍結卵子で妊娠する場合は、体外受精になるので、そこからは先は不妊治療と同じです。どれだけ寿命が延びて技術が進歩しても、20代~30代前半ぐらいまでが出産適齢期であることは変わらないのです」
『婚活バイブル』などの著書もあるジャーナリストの白河桃子さんも、「卵子凍結は、出産を先延ばしにする口実になるのでは」と心配する。
「職場で『今は産むなよ』と言われたり、産めない雰囲気を感じる人は多い。そこに、卵子凍結の技術が浸透すると『凍結しているなら、まだいいよね』という風潮が、今後生まれかねません。それよりも、産めない雇用環境をなんとかするべきでしょう」
今年5月から健康な未婚女性の卵子凍結サービスを行っているリプロセルフバンク(東京都新宿区)の香川則子所長はこう語る。
「一生懸命働いていた方が40歳ぐらいで結婚して、そこから不妊治療を始めるケースが今すごく多いのですが、9割以上はうまくいかないのが実情です。それならせめて、赤ちゃんになる可能性の高い卵子をお預かりしたい」
白河さんによれば「卵子凍結はあくまで“お守り”のようなもの」。イギリスでは「娘の大学入学のお祝いに、父親が卵子凍結をプレゼントした」といった実例もあるそうだ。日本でも働きながら産める環境が整わないかぎり、この“お守り”を握りしめる女性が増える可能性は大いにあるーー。