鍋つゆといえば液体。そんな常識を変えたのが、味の素の『鍋キューブ』だ。味は《鶏だし・うま塩》《濃厚白湯》《ピリ辛キムチ》など4種類。発売が始まった’12年冬には20億円の売り上げを記録し、この冬はその1.5倍の売り上げを目指している。

 

「じつはこの商品、『新しい鍋つゆ』を作ろうとして考えだしたわけではないのです。いまウチの持っている強みや設備を生かせるものはないか。今回もそこから出発し、周囲を見回したときにまず目についたのが、コンソメでした」

 

そう話すのは、発案者である味の素の開発・マーケティング担当者・島谷達也さん。味の素KKコンソメは、50年以上の歴史を持つ商品。日本にはこうしたキューブ状の調味料は少なく、コンソメの市場は同社のひとり勝ちといっても過言ではない。

 

「この価値ある独自性を、何とか新しい商品に生かせないかと考えました。コンソメのように、しっかりしたうま味と塩味がベースになっていて、スープのおいしさだけでも十分に商品価値がある煮込み料理の素とは何か。そう考えたとき、鍋つゆの素を思いつきました」(島谷さん・以下同)

 

島谷さんは、鍋キューブを含めたいくつかのアイデアを、新商品開発のための会議に提出。120ものアイデアの中から厳選したものを最終的に4つにまで絞り、消費者に聞き取り調査を行った。そこで断トツに評判がよかったのが、この鍋キューブだった。

 

「イケると感じたのは、調査に参加してくださった方々から『鍋つゆは重くて。あれを買うと、牛乳をいっしょに買うのをやめちゃうのよ』と聞いたときです。今まで、お客さまの買いやすさという視点から開発を考えたことはありませんでした。この商品はわれわれが想像している以上に、お客さまに評価していただけるだろうと確信しました」

 

コンソメで培った50年以上の技術があれば、鍋つゆをキューブにすることはさほど困難ではないーー。そう島谷さんは考えていたが、そのもくろみは見事に外れてしまう。

 

「研究所の開発担当者に説明したら『作れませんね』と即答されました。コンソメはおもにうま味と塩味を凝縮した、いわば単純な構成です。そこに、たとえばキムチ鍋の辛味や酸味、みその甘味などの複雑なハーモニーを加えて表現しようとしたら、キューブ1個が、ゲンコツくらいの大きさになってしまうそうで(笑)。そのうえ溶けやすいとなると、さらに難しいといわれました」

 

だが、解決すべき課題ははっきりしている。島谷さんは研究者と話し合い、素材と製法の工夫を重ねていった。

 

「ネーミングは30以上の候補から選び、パッケージはブランド名より『ギュッ』というコピーを大きくして、特長がひと目でわかるようにしています。納得できる商品にするために、できることはすべてやる。積み重ねていけば、間違いなくいい方向にいくものです。根底にあるのはブランドへの愛情ですね」

 

鍋キューブには島谷さんの愛も“ギュッ”と詰まっている。

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