職場や家庭で、クレーマーの被害を受ける可能性も否定できない時代。そんなときの対策を、長年、クレーム処理に携わってきたプロに聞いた。何より、あなた自身が理不尽な要求を突きつける人間に、決してならないように!
「“理不尽な怖い人”との出会いは、以前は避けて通ることができました。けれど弱者がツワモノ化している現代、いつ、どこで、自分がモンスター化したクレーマーの矢面に立たされるかわかりません。真面目な人が突然、ささいなことにガマンできなくなり、理不尽な言いがかりをつけてしまう。このように、プロではないクレーマーを、私は『ホワイトモンスター』と呼んでいます。誰もが、潜在的にホワイトモンスター化してしまう可能性はあります」
そう話すのは、元大阪府警の刑事で、その経験を生かして数々の悪質なクレームを解決してきた、援川聡さん。クレーマー対策のプロとして、著書『理不尽な人に克つ方法』(小学館新書)などがある。ホワイトモンスターに遭遇した場合、私たちはどう対処すればいいのか。その知恵を援川さんが伝授してくれた。
「まずやらなければならないのは、問題が大火事にならぬよう『初期対応』をすることです。第一印象が大切ですので、丁寧に相手の話を聞きましょう。いくら相手が悪くても、『半沢直樹』のような態度はNG。『相棒』の杉下右京のように、プライドを捨てて下から目線で、話を聞くようにしましょう。効果的なのが『相づち』と『復唱』。これを交えながら、事態を把握していきます」(援川さん・以下同)
初期対応として重要なのは、相手の話を誠意をもって「傾聴」すること。そして、あくまでも低姿勢で話を聞きながら、相手の動機、目的を理解するように努める。このとき『大切なことなので、記録させていただきます』と相手に伝え、メモと録音をしておくこと。次に、相手にお詫びを述べる。ただし、そこには注意すべき点が。
「お詫びは、モンスターの勢いを食い止める効果があります.真摯な気持ちで、言葉を伝えましょう。ポイントは、1に“相手が感じた不満”、2に“こちらが与えてしまった不快感”、3に“こちらの手際の悪さ”の3点に対してのみ、お詫びをするということです」
たとえば「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」「お手間を取らせてしまい、申し訳ございません」など。ここで援川さんは、「お詫びと謝罪は違う」と強調する。お詫びをすると、相手が「責任を認めたんだな」と詰め寄ってくることがある。しかしお詫びは、正式な補償を伴う謝罪とは違うものなのだ。
またこのとき、決して使っていけないのは「だから、ですから、だって、でも」の「D」で始まる「D言葉」。
「これが、火に油を注ぐことになります。『D言葉』ではなく『失礼しました、すみません、承知しました』の『S言葉』を!」
犯罪性のあるクレームならば、警察の相談専用電話や法テラスに、無料で相談できる。その際に役立つのがメモや録音などの記録だという。
「メモを取ることで『証拠』になることを暗に伝え、復唱することで、どれほどひどいことを言ったのか悟らせる、2つの効果があります」