増税などの負担増分を相殺するためにも収入を増やしたい。そこで注目されるパートの正社員化。しかし、収入増以前に落とし穴も多そうです。今回は、苦労しない「地域限定社員」の働き方を、経済ジャーナリストの荻原博子さんに解説してもらいました。
「最近、ユニクロや日本郵政では“地域限定社員”を急増させました。地域限定社員とは、勤務地をある範囲に限定する働き方です。正社員ですが、引っ越しを伴う転勤がない代わりに、一般的な正社員より給与は低く抑えられます。また、勤務先が業績不振などで閉鎖された場合、一般的な正社員なら別の勤務地へ転勤し雇用は続きますが、地域限定社員は契約した地域に転勤先がなければ解雇されることもあります」
では、パートから地域限定社員に転換すると、何が変わるのだろうか。大きく分けて4つあるという。
1 パートは有期契約だが、地域限定社員は無期契約なので、基本的には定年まで勤められる。しかし前述の通り、解雇されやすい雇用であるという危惧もある。
2 パートは時給制だが、地域限定社員の多くは月給制。給与額もパートより高め。
3 地域限定社員は、社会保険に加入する。厚生年金に加入すれば、老後の年金額が国民年金より増える安心感もある。
4 地域限定社員には、職分に応じた責任やノルマが課せられる。ノルマを達成するため、精神的プレッシャーや残業が増える可能性も。
「4つ目でも述べたように、非正規から正社員になれば、それだけでばら色の働き方が手に入るとは決して言えません。地域限定社員は、アベノミクスの成長戦略のひとつです。ですが、成長戦略は日本経済のために、企業を成長させる戦略です。企業の論理が優先され、残念ながら、働く側の労働環境や十分な休息時間といった社員のための戦略ではありません」
さらに政府は、6月に発表される新たな成長戦略に、新労働時間制度を盛り込もうと検討している。この制度は、労働時間に関係なく、仕事の成果に対して給与を支払うもの。採用されると、ノルマさえ達成すれば早く帰宅でき、いっぽうノルマが果たせるまで長時間働いても残業代はゼロ。残業代を払わなくてもいい企業がノルマをきつくし、過重労働の歯止めがなくなるのでは、と心配する声もある。
「労働環境はますます過酷になります。その中で、どう自分らしく働くか、自己防衛の手段を探さねばなりません。スキルアップもそのひとつ。政府の甘い言葉をうのみにすると、自分の首を絞めることになりかねません。身近な職場にいる地域限定社員の働き方をよく観察して、自分の働き方を決めてください」