「日本のロボット技術は、’20年の東京五輪に向けて、ロボット産業革命といわれるほどの大きな転換期に入ります。これから数年で、私たちの暮らしは大きく変わります」
ロボットの未来について、こう語るのは千葉工業大学・未来ロボット技術研究センターの古賀貴之先生。福島第一原発の事故現場で唯一、建屋内すべてを探査したロボット「クインス」を開発した、日本のロボット技術開発の第1人者だ。
「ロボットといえば人型の機械が動くと思う人もいますが、ロボットとは『感じて考えて動く機械』のこと。たとえば最新のエアコンは人を感知して、そこだけ温めますが、これはロボットの人工知能を利用した“ロボット風味”のもののひとつ。これまでも家電や車に応用されています」
政府はロボット技術を文化として根付かせることを推し進めているという。
「その背景には、ロボット技術で衣食住が変われば、少子高齢化対策になるということがあります。たとえば住まい。家のいたるところに健康センサーが埋め込まれ、暮らす人のさまざまな健康データを計測し、健康診断してくれる家が発売されます。その家は、遠隔操作で医師に連絡をしてくれます。また、蓄積されたデータから、住人に『塩分が多い』や『不眠症ぎみ』などと注意し、体調にあったサプリメントや食事メニューを提案してくれます。この“ロボット風味”の家は、5年後には当たり前になっているのです」
夢のような話を聞いている気分になるが、古田先生は「僕は絵空事が嫌いですから」と、笑いながらこう続ける。
「移動手段も、買い物などちょっとした移動なら『i-ROAD』のようなロボット化した小型スクーターが主流になります。また街自体をロボット化して老人や子供を見守ったり、センサーを使って車やスクーターと連動し、交通事故を防いだりすることもできるのです。このようなロボット技術の進化によって健康・安全・快適に過ごすシニアの人たちが活発に動き、経済や文化を牽引すれば、高齢化社会のリスクは解消されるでしょう」
進化するロボットはどこまで?
「部屋をロボットが掃除するなんて、10年前なら誰も考えていませんでしたが、今や当たり前になりつつあります。それだけ、1度動き出した技術開発は急加速していくものです。’20年に、食器を洗って食器棚に片付けてくれたり、干してある洗濯物をたたんでくれたりする、アシスタント・ロボットが出てくる可能性は、そんなに低くないと考えています」
最後に古田先生は、こんなメッセージを残してくれた。
「人間は、人と触れ合い、他者から必要とされて生きることが幸せのはずです。ロボットはそのお手伝いをしてくれる機械であり、道具です。技術が高度になるほど、私たちは何が幸せか立ち返らなければいけません。ライフスタイルが変わり、時間ができたら、それを幸せになるための時間に使ってほしいです」