「涙の原料は血液です。赤血球や白血球は濾(こ)されているため透明な液体なのです。人は状況に応じて3種類の涙が流れることで、体も心も守っているのです」
こう語るのは、順天堂大学医学部教授の小林弘幸先生。ひとつめの涙は「基礎分泌」といわれるもの。感情にかかわらず、まばたきのたびに少しづつ分泌され、目の表面を潤している。ふたつめは「反射性分泌」。目にゴミが入ったときや、玉ねぎが目にしみたときに、これらを洗い流すために分泌される涙。
「そして3つ目が『情動性分泌』です。これが、私たちがイメージする涙ですね。嬉し涙や悔し涙など、感情が高ぶったときに、脳からの信号を受けて涙腺から流れ出します」
なぜ感情が高ぶると涙が流れるのか?それは科学的にもいえることで、涙によって自分を癒しているからだという。
「情動の涙には、プロラクチンやACTH、コルチゾールなどのストレスホルモンが含まれています。つまり、涙とともにストレス物質を体内から洗い流しているのです。同時に、脳内からエンドルフィンという快感物質も放出。泣いてすっきりするのはこのためです」
怒りの涙でも、嬉し泣きでもストレスホルモンは排出されるが、涙の「味」は、そのときの感情によって変わるそうだ。
「怒り涙や悔し涙を流すとき、カラダは交感神経の働きが優位です。すると、腎臓のナトリウムの排出が抑制されるため涙に含まれるナトリウムが多くなり、涙はしょっぱくなるのです。他方、喜びや悲しみの涙を流すとき、人は副交感神経が優位になっているため、涙は甘めです。また、男性に比べて女性が涙もろいのは、生物学的にも仕方のないこと。女性は男性よりプロラクチンが1.5倍多いため、涙腺が刺激されやすいのです」
「涙もろい」ということは、それだけ自分を癒やす場面が多いということ。「涙活」が話題を呼んだが、ストレス社会を生き抜くためには「いかに積極的に泣けるか」も重要なよう。
「しかし、同じ『積極的に泣く』のでも、『嘘泣き』には、こうしたストレス解消効果はありません。むしろ披露やストレスが増強したという実験結果もあるほどなので、その場しのぎの『嘘泣き』は、控えたほうが賢明でしょう」