「しつけ不要」「見返りを求めてOK」という“脱・常識”の子育てを提唱する、男装をやめた東大教授の安冨歩さん(51)。中国は儒教の教えを基に、自らの実体験をふまえて語られる方法論は、決して机上の空論ではない。安冨教授の子育て論、その1。
――子どもを先生のように立派な人物に育てたいというお母さんは多いと思います。先生が考える、正しい子育て法とは?
「私は京都大学を卒業して、現在は東京大学で教授をしています。絵に描いたような“エリート街道”ですよね(笑)。今の日本では、子どもをいい大学に入れることが『正しい教育』とされているので、母は地元では素晴らしい教育をした人として尊敬されています。でも、ここがとても大事なんですが、たとえ一流といわれる大学を卒業して尊敬されるような仕事に就いたとしても、そのことと幸せであることには、なんの関係もないんですよ」
――学歴やキャリアがあっても幸せになれないということですか?
「『学歴・キャリア』=『幸せ』ではないということですね。私自身、大学入試に合格し博士号をとり、東大教授になりましたが、どの試験に合格しても“ああ、やれやれ”と思うだけで、うれしくもなんともなかった。毎回、立てた目標に“これに失敗したら死ぬ”というくらい必死で臨み、達成してホッとすることの繰り返しでした。そんな人生が幸せだと思いますか?実際、何にも喜びを感じていない自分に気がついたときは自分でも驚きました。それが10年くらい前のことですね。そのことに気づいてからは、いろんなことを少しづつ喜べるようになりました」
――東大教授にはなれるけど幸せになれない子育て法とはどういうものなんですか?
「戦前生まれの両親からは、戦争が終わっているのに『そんな弱虫じゃ兵隊になれないぞ』などと叱られ、『戦争』や『死』が日常にありました。私に限らず、エリートと呼ばれる人たちは、子ども時代に死を意識させられながら育つ人が多いようです。たとえば“親の言うことを聞くいい子でいれば今日1日は生きていていい”というように『よい子切符』を発行され、よい子でいなければ自分は生きていられないと思い込まされたりします。すると、親の言うなりに死ぬ気で勉強をしますし、世間的にはものすごくよい子になりますが、私のように目標を死に物狂いでクリアするだけの人生を送るはめになるのです。何か1つでも自分が課したミッションに失敗したら壊れてしまうくらい精神的には常にギリギリで……。子どもを本当に愛しているのなら、いい大学=いい人生という誤った固定観念を捨てることから初めてください」