元NHKのアナウンサーで、『家族という病』が38万部のベストセラーとなり、現代人が抱える家族の問題を改めて世に突き付けた作家の下重暁子さん(79)。いっぽう、豊富な臨床体験に基づいた『親子という病』の著書がある精神科医の香山リカさん(54)。
「家族の絆」といえば聞こえはいいが、愛情にとらわれ、互いに依存すると個人を押しつぶす。そんなしがらみと闘ってきた2人が語る、ラクに生きるための家族との距離の取り方とは?
下重「私、結婚する気はまったくなかったの。大恋愛はしたけれどもね(笑)。NHKを辞めた30過ぎのこと。つれあい(ご主人)の家に遊びに行ったら、台所でトントンと料理を作っていたのよ。その後ろ姿を見ていて、あっ、私が馬鹿にしてきた、ご飯とか掃除とか、生活というものは、本当は生きていく土台なんじゃないかと思えたのね。それで一緒に暮らせるかもと思ったのね」
香山「本にもありましたが、つれあいの方のご実家での過ごし方がユニーク」
下重「そうなの。お正月など、つれあいと義母と義姉が台所に立っていて、私と義理の父とでお酒を飲みながら料理を待っている(笑)」
香山「彼のお母さまがお偉いですよね」
下重「淡々とした賢い女性です。4人姉弟で、つれあいは一人息子なのよ。当のつれあいとは、結婚するときに、『相手に期待しないで、自分に期待しよう』と暗黙の約束をしました。人に期待したら、必ず裏切られますよね。自分に期待すれば、自分がやらなかっただけだから、しょうがないなと思える。だから、うちは仕事も干渉しないし、今でも独立採算制です。料理も、ずーーっと向こうが作っております(笑)。それも、私のためじゃないの。彼は自分が食べたい物を作っているだけ。香山さんのお宅は?」
香山「うちは、もう40歳くらいになってから、お互いに親の介護があるから、一人じゃしんどいと思って。彼は一言でいえば生活力のある人で、まあ、合宿生活みたいです。こんなこと言うと、怒られるかも(笑)」
下重「そうしたさりげない関係のほうが、淡々と暮らすにはいいわよね。うちのつれあいは一般的な権力欲もないから、一緒にいてラクよ。だから私にとっては、主人でも夫でもなく、つれあい。でも、私があえて『つれあい』と書いた原稿を、わざわざ『主人』に変えられることがあるの。腹立つわよ(笑)。夫婦の形もいろいろあって当然なのに」
香山「私たちの世代は、男女雇用機会均等法のころに社会に出て、今後はそんな社会が続くのかなと思っていたら、今になって、逆に家族回帰のような空気になっています」
下重「実は私、今から自分の死の演出を考えています」
香山「えっ、つれあいの方もお元気と思いますが」
下重「はい、私より3つ年下ですから。でも今思うと、男は、30は年下がよかったかな」
香山「30歳もですか!」
下重「私、若い人、大好きだから(笑)。でもね、自分が年を重ねることは、ちっともイヤじゃないの。それは余分なものが削ぎ落とされて自分らしくなることでしょう」
香山「『孤独死も不幸と思わない』という考え方に、私も大いに賛成です。逆に、嫁の立場で大家族のなかにいる女性からは、大原麗子さんがお一人で亡くなったニュースのとき、『私には孤独死する自由もない』という相談もありました。家族がいるから、わかり合えるというのは幻想なんですね」
下重「家族だから、わかり合えないのよ」
香山「介護も、他人に頼むほうがうまくいくものです。親子同士でいると、つい感情的になって介護殺人とかもあるけれど、お互いに他人だと、介護される側もいい顔を見せて『ありがとう』と言える」
下重「まず、子供も夫も、家族といえども個人と知ること。そして、孤独力を高めることがラクに生きる近道じゃないでしょうか」