「顔をもう少しカメラに向けて。もう少し上向きに」「2人だけ、遠くを見るように……うん、カッコイイ」
その美しい女性写真家は「モデル」たちに、身ぶり手ぶりでポーズを指示する。パシャ、パシャ、パシャと乾いた風のなか、シャッター音が響き渡る。
「横を向いて。そうそう、眠るように目を閉じて」
まるでファッション誌や広告ビジュアルの撮影風景。違うのは、ここがアフリカの大地で、被写体が現地の少数民族ということだけ−−。
モデルたちは、誇り高く好戦的なエチオピア北部のアファール族。射抜くような視線で、レンズを見据える。若き女性写真家は少しも動じず、ポージングから表情まで、細かく指示を飛ばしていた。
少数民族の写真といえば、広大な自然のなかの“ありのまま”の姿が脳裏に浮かぶ。しかし、彼女の写真は全く違う。ポーズをつけ、絵を決めて撮った彼らの姿は、やけにオシャレでカッコイイ。
「アファール族は3〜4回トライしたけれど、これまで1回も撮れたことがなかったんです。たまたま、そのときのアファール族が無愛想だったのかもしれないんですけど」
ヨシダナギさん(29)。モードな装いでファインダーをのぞき込む彼女は、アフリカ人の美しさや魅力、面白さを伝えるフォトグラファーだ。独学で写真を学び、’09年からアフリカでの撮影を開始。’13年、エチオピアのダサネチ族の写真をFacebookで発表する。上半身を隠さず、色鮮やかなビーズの首飾りのみ身にまとうダサネチ族の女性の美しさは「絵画のよう」「オシャレすぎる」と話題を呼び、またたく間に拡散された。
同年、同じエチオピアのスリ族の写真を公開すると、花や実、枝、土などを使って全身を華麗に飾りあげた姿が「世界一ファッショナブルな民族!」と注目の的に。
同時に耳目を集めたのは、彼女の撮影スタイルだ。少数民族の、裸に近い部族を撮るナギさんは、自らも服を脱ぎ、彼らと同じ格好をする。「ハダカで撮る!」のだ。そのキャラクターもユニークだ。部族の女性に、あらわになった自分の胸をもまれても、動じることなく笑い転げ、歓迎の印にふるまわれた牛の生き血を喜々として飲む。
出演したテレビ番組『クレイジージャーニー』(TBS系)では、スリ族の村の外で用を足していたら野次馬が集まったエピソードを楽しそうに披露した。自身も被写体のように美しいのに、ナギさん、ちょっとヘンな人、なのだ。
とはいえ、実はめっぽう、人見知り。アフリカの奥地で裸になることは厭わないのに、注目され、トークショーや取材の依頼が増えた今、人前に出る直前には必ず、おなかを壊してしまうという。そんな彼女が、ハダカで撮った写真で今、伝えたいこととは。
「アッパーなアフリカを伝え、アフリカファンを増やすことで、上から目線の同情からではなく、少数民族のいいものを残す支援につながったら、ありがたいなって思うんです」
今年も早々からエチオピアへ飛ぶ。3月には、初めての写真集も出る。
「アマゾンやパプアニューギニアの少数民族の集落にも、機会があったら行ってみたい。裸になる手法が、アフリカ以外の国でも通用するのか試してみたいですね」
美人フォトグラファーは、これからも“ハダカ”になって、世界の果てへと飛んでいく。カッコイイ少数民族の、誇り高い佇まいを、幸せな笑顔を、誰も見たことのない色鮮やかな写真で伝えたいから。