「事実は小説より奇なり」と申しますが、歴史上には女子が大好物“ドロドロストーリー”がいっぱい。歴史マンガはそれを苦もなく堪能できるうえ、成績も知識量もアップしちゃう、最強ツールだった!
「僕自身も医者だからかもしれませんが、いちばん興奮したのは江戸末期に抗生物質を作るエピソードです。清潔な研究所も医療機器もないなか、原始的な精製・抽出法で作っていく過程に感動しました。作者の村上もとかさんは本当によく調べられている。緻密な時代考証が『JIN-仁-』の魅力を支えているんだと思います」
精神科医の名越康文さんイチオシのマンガは『JIN-仁-』。現代の医師・南方仁が江戸末期にタイムトリップ。歴史を変えてしまう恐れと葛藤しつつ、江戸人たちを近代医療で救っていくストーリーだ。名越さんはこの作品を読んで、現代人はもっと夢や希望を持つべきだと感じたそう。
「今、僕たちは自由だけれど、自由というのは重いもの。努力や勉強が必要だし、競争がつきもの。個性を出すのもしんどいですよね。でも、この自由は、江戸から明治への動乱期に僕たちの先祖が血を流して勝ち取ってくれたものなんです。この作品を読み進めると、自由のありがたみにハッと気づかされます」
名越さんのライフワークの1つは、仏教を心理学に応用し、生活に生かすこと。手塚治虫の名作『ブッダ』は、お釈迦様の生き方や思想の入門書として最適だという。
「ブッダは偉大な心理学者だったと、僕は思います。悟りを開くまではブッダ自身が悩み苦しんだり、世間のなかでもまれたりする。苦しんでいる人たちを救うプロセスのなかには心の葛藤や苦しさを乗り越えるノウハウが詰まっています。自分と同じような悩みを抱く登場人物に共感したり、自分の心も軽くなったり。手塚作品ですから当然面白いですし、楽しみながら仏教の基礎を学べます」
最後に紹介するのは、三国志に登場する曹操が主人公の『蒼天航路』(漫画・王欣太/原案・李學仁)。極悪非道なイメージが強い曹操が、本作では魅力的な人物に描かれている。
「家族や仲間を大切にする、お互いを尊重する、義理や人情を大切にする。そして、『男として生まれたからには天下を取ろう』という曹操の生き方は、ある意味“超知性派ヤンキー”なんです」
ヤンキー文化の根強い日本人が大好物のキャラクター設定だ。
「曹操は人も殺すし、裏切り者には非常に冷酷だけれど、自分にないモノを持つ人間を素直に認め、愛します。今の日本の教育に必要なスケールの大きさを感じますね。また、多種多様の人物がそれぞれ魅力的に描かれているので、ワクワクしながら読み進めるうち、いつの間にか自分のワクから少し自由になっていることを実感できます。読み手が自分自身のコンプレックスを超越し、心をひと回り成長させる助けになるんです」
面白いうえにコンプレックスも乗り越えられるなんて、今すぐ読むしかない!?