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《やっとオリンピック出場が決まりました。ほんと、復帰してよかったです!!》

 

3月21日深夜、三星マナミさん(32)の携帯に、遠くハンガリーから8月に開催されるリオ五輪への出場が確定したことを報告するラインメールが届いた。

 

差出人は、フェンシングの佐藤希望さん(29)。ロンドン五輪に出場するなど国内トップの座にいながら、産休と育休を取得。世界ランキングポイントもゼロになるという2年間のブランクを乗り越え、ママとなって復帰してからの悲願達成だった。

 

すぐに三星さんは、《やったーーー。本当におめでとう!子供にとっても本当にいい経験になると思うから、胸張って、ママの背中、見せてあげてね》と返信した。

 

三星さんはソチ五輪のハーフパイプに出場したオリンピアンで、現在は女性アスリートの妊娠・出産・育児と競技生活の両立について体験者や専門家が相談に乗ったり、ワークショップを開くことで彼女たちを支えること目的とした「ママアスリートネットワーク(以下・MAN)」の代表だ。

 

かつて「ママでも金」の柔道の谷亮子選手ら注目されるママアスリートはいたものの、その数は海外に比べると圧倒的に少なく、女子選手は結婚・出産などを機に引退するのが日本のスポーツ界の半ば常識だった。

 

しかし、近年、女性の社会進出とともに、子育てしながら競技を続けたいと願う人が増えている。国立スポーツ科学センター(JISS)の調査では、既婚の女性アスリート282人のうち32%が出産後の現役続行を望んでいる。一方で、オリンピックの強化指定種目の女性アスリート566人のうち出産経験のある選手はわずか9人のみ。現在の日本でも、女性が活躍する社会を政策で掲げながらそれを実感するにはほど遠い現実があるが、スポーツの世界でも出産やその後の復帰に向けた環境の整備は遅れている。

 

三星さん自身も、引退したあとに復帰してオリンピックに再チャレンジしたが、そのとき味わった迷いや葛藤こそが、MAN設立につながった。

 

「女性が大好きな競技を、妊娠や出産をハンデとしてやめていくのは見過ごせませんでした。私のときは、相談する人が日本にいなかった。だから、ママアスリート同士で情報交換できる場が必要と思ったんです」(三星さん)

 

「チーム青森」としてカーリングで2度の冬季オリンピック出場した本橋麻里さん(29)も、MANのワークショップに参加した1人だ。

 

「私にとって、カーリングは働く女性の仕事と同じ。三星さんが、幼い娘さんを海外遠征に連れていったという講演を聞いて、環境さえ整えれば、子供にママが“職場”で頑張る姿を見せることもできるんだと知りました」(本橋さん)

 

リオ出場をかけた試合会場にも子供を連れていった佐藤さんもこう語る。

 

「MANで同じ立場の人と知り合い、競技者ならではの悩みを共有できたことで勇気をもらえました。子供がそばにいたからここまで頑張れたというのも事実ですから」

 

’14年にMANが発足する前年より、文科省の委託事業としてJISSでは『女性アスリートの育成・支援プロジェクト』をスタート。海外遠征時の保育費の負担などもサポートしてきた。これに当初から関わり、MANを立ち上げた1人でもあるJISSの土肥美智子医師(50)は言う。

 

「妊娠や出産に際し、どこで休んで、どこで復帰するか。ママアスリートの問題は、働くママの問題に似ていると思います」

 

実は、前回のロンドン五輪で、夏季では初めて女子選手の数が男子を上回っている。リオでも女性アスリートの活躍が、メダル獲得数に大きく影響するのではないかと期待が高まるのも当然の流れだ。そうしたなか、子育てと競技を両立させながら、まさに背水の陣で奮闘するママアスリートの背中を、いまや選手の子供たちだけでなく日本中が注目している。

 

土肥先生は北京、ロンドンに続き、リオ五輪でも選手団に帯同する予定。女性アスリート支援の今後について、もっと年齢の幅を広げようと考えている。

 

「体重を絞りすぎたり、激しい練習などのせいで無月経のまま無理を続けていると、骨粗しょう症になったりして、結局、競技者寿命を縮めます。ママになる前の10代のアスリートの支援も進めたい。同時に、トップアスリートだからといって支援に頼るのではなく、1人の女性として自立することが競技者としてのレベルアップにもつながると思うんです。オリンピックだけでなく、女性の問題として、ライフイベントのサポートをしていきたいんです」(土肥先生)

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