「50歳を超え、そろそろついのすみかを決めようとしたとき、私たちシニアにとってこの先の最大の関心事は、病院や介護施設。しかし、いま住んでいる福岡市だと、ミニ東京化しているといいますか、人口も多い分、希望の施設に入るのに待機児童みたいに“待ち”もあったりして不安です」
8月12〜13日の両日、小倉駅近くのビルで行われた北九州市主催の「U・Iターン相談会」で、52歳の望月恵さん(仮名)が語る。もともと小倉南区の生まれで、夫の転勤で東京はじめ日本中を転々として、現在は福岡市在住。
「その点、北九州市は病院などの数も日本でもトップクラスなので安心。キャリアを生かせる職さえ見つかれば、すぐにでもUターンしたいです」
毎年、お盆と年末の帰省シーズンに行われるU・Iターン相談会は、ここ数年とくに人気で、250人ほどが訪れる。その背景には、北九州市が、シニアにとって魅力的な町となっている事実がある。
この夏も、『田舎暮らしの本』(宝島社)8月号の「50歳から住みたい地方ランキング」で北九州市が、新潟市や高知市を抑えて1位に。そのニュースに、かつての北九州市を知る人の一部から驚きの声が上がった。
「私が住んでたころの北九州市は製鉄所のスモッグや犯罪で有名だったので、住みたい町と言われても、正直ピンときませんでした」
10代で北九州市から上京して以来、ずっと東京・世田谷で暮らす57歳の女性は苦笑する。実は、市のイメージ調査でも、暴力団犯罪や荒れる成人式などが今でも上位にくる。しかし、実態は違うようだ。
「暴力団浄化作戦が功を奏すると同時に、『刑法犯認知件数』もこの8年間で7,000件近く減るなど、治安も格段によくなっています」(地方創生推進室の岩田健課長)
『田舎暮らしの本』では、地域ごとの入院ベッド数などをもとに医療の提供能力の余力や、介護の充足度を評価。さらに移住支援の積極度など独自のアンケートをもとにランキングを作った。また、本誌が市などに聞取り調査した結果でも、「物価の安さ」や「土地の安さ」なども、北九州市が政令市で1位に輝いた。
北九州市の産業経済局の田中規雄部長は次のように語る。
「東京と単純に比較すると、年収は2割から3割くらい減ることになります。しかし、物価や住居が安いので、実は大都市とレベルを変えずに生活できるんです。それを実感してもらおうと“お試し居住”などを始めて好評です。北九州市は鉄冷えで人口減などもあって、20年ほど前からシニア世代に住みよい町づくりをしてきて、その成果が表れてきたように感じます」
8月29日には、戸畑区に主に50歳以上の中高年の就労を支援するシニア・ハローワークもオープンするが、これは日本初。相談会が行われていた同じビルにあるのが「ウーマンワークカフェ北九州」。市と県と国が一体となり女性の就業支援を行う、これも全国初の施設。
そして、北九州市は子育てしやすい町でも常にトップクラスの評価を維持。今年も「待機児童ゼロ」を実現しているが、それを支えるのがシニアだ。
小倉駅にも近く、休日には1日1,000人以上もの子供が訪れる「子育てふれあい交流プラザ“元気のもり”」。自然木の遊具であふれる、巨大テーマパークとは違うぬくもりを感じる施設だ。事業リーダーの中山富士子さん(52)はいう。
「スタッフやボランティアとして、読み聞かせや木の玩具を磨いてメンテナンスしたり、縁の下の力持ちとなって活躍しているシニアが多数います」
シニアが住みやすい町・北九州市は、女性や子供にやさしい町でもあった。興味を持った人は、まず旅行からでも訪ねてみては。