「今年は道東から三陸海域の水温が高く、親潮の流れが遠い沖合を流れているので、沿岸漁場にさんまが近づきにくい。今年のさんまは’81年度以降漁獲量が最低だった昨年より若干下回ると予想しています」(国立研究開発法人 水産研究・教育機構東北区水産研究所)
そんなさんま不漁のニュースを耳にした記者は、この目で様子を確かめるべく“移転延期”に揺れる築地市場に向かった。仲卸業者との待合わせ時間はなんと、深夜2時!到着すると、「鈴千代」の森英將さんが人懐こい笑顔で迎えてくれた。
築地の場内は、セリ場と仲卸業者のエリアに大きく二分できる。産地から荷を受ける卸売会社がいるのがセリ場。そこに森さんら仲卸業者が出向いて魚を購入。場内の自社店舗に持ち帰ったところに、魚屋さんや飲食店の人が買いに来るというシステムだ。
森さんはすでに商品の仕分け中。作業が一段落した2時半ごろ、いよいよセリ場へ!ニュース映像で目にするような、掛け声と指文字で盛り上がる(?)セリを期待していると、「さんまはセリをしないんですよ」と、森さんから衝撃の一言が……。
「初物は別として、セリをするのはマグロと活魚くらい。それ以外は発泡スチロールの箱に価格が書いてあります。商品と金額を僕ら仲卸がチェックし、買い付けるんです」
なるほど、広い鮮魚のセリ場には、所狭しと大小さまざまな発泡スチロールの箱が積まれている。そっとさんまのおなかを持ち上げ、生きをチェックする森さん。「脂ののったさんまは腹回りがドーンとしてます。出始めのものとしてはまずまずです」と満足げ。
買い付けを終えたところで、さんまについて話を聞く。
「さんまは鮮度が何より大事。頭とハラワタを取って吸水シートで巻いておけば1日ぐらいは冷蔵庫で持ちます」
ついでに、森さんの来し方も聞いてみる。
「釣りが好きで、魚をもっと勉強したくてこの世界に入りました。築地市場で働きだして10年ですが、ここの活気が好きなんです。いい人ばかりですし。ただ、生活が完全に昼夜逆転なんですよね」
そう苦笑する森さんの起床時間は深夜23時……。たくさんの人の苦労を経て食卓に届くさんま。明日からは心して味わおうと誓った。