安倍政権は高齢者が受け取る年金をさらにカットする「年金カット法案」を、今国会で成立させてしまおうという暴挙に出ている。法案は一度、今年3月に、衆議院に提出されたが、夏の参議院選挙を控えて高齢者からの反発が予想されたため、成立を見送った経緯がある。
参院選で大勝した政権与党が社会保障に大ナタを振るってきた、というわけだ。年金のほかにも介護では、軽度者向けのサービスを相次ぎカットしようと、“年寄りいじめ”に余念がない。その「年金カット法案」の中身は、2年前“アベノカット”と物議を醸した「マクロ経済スライド」よりも強力という。
年金の給付額は物価・賃金の動きに合わせて毎年度改定されている。’04年に導入された「マクロ経済スライド」は、物価・賃金の伸びよりも1%程度低く抑える仕組み。物価が伸びないデフレ下では、実施できないルールがあり、今まで物価の上昇を受けた’15年度の1度しか実施されていない。そこで「年金カット法案」を導入して、デフレ下でも年金の給付額を低く抑えられる仕組みにする。
「これまでは物価が上がって、賃金が下がったケースは給付額が変わりませんでしたが、『年金カット法案』が適用されますと、つねに物価と賃金の低いほうに合わせて年金がスライドされます。その年の物価が上がっても賃金が下がってしまいますと、受け取る年金額は下げられてしまうのです」
こう語るのは、民進党の井坂信彦衆議院議員。政府が提案する「年金を減らす新ルール」で、井坂議員が「えげつない」と憤るのは、「物価が下がって賃金が上がった場合」や「物価が上がって賃金も下がった場合」でも、物価と賃金の「低いほう」につねに合わせて年金を下げるという仕組みだ。過去の日本経済を見ると、バブル期並みの好景気にならなければ、年金の給付額は上がらないのだ。井坂議員の試算によると、新ルールを過去10年のデータにあてはめてみると、10年で5.2%年金が減る計算に。
「法案を出すにあたって、厚労省は『どれだけ年金が減るのか』といったシミュレーションをいっさい出していません。2年前の財政検証で『100年先まで大丈夫』と言っていたのに、こっそり年金カット法案を出してくるところが、えげつない」(井坂議員)
少子高齢化が進む中、現役世代の負担を軽減して、年金給付額の水準を維持するために必要な措置だと政府は説明するが、もらえる年金は、物価からかけ離れて低くなる。必要なものが年金で買えなくなってしまう恐れがあるというトンデモ法案なのだ。